ああ、君は優しいな・・・どうしてそんな風にいられるんだろうね?

ああ、貴方はどうしてそんな目をしているの?


2人の瞳は、共に違う方を見つめ、違う想いを募らせる。
これも、歯車のしての運命なのか・・・
それとも・・・



想いの先




リョウはずっとこんな調子だ・・・・
ルカ・ネオタールは向かいに座っているリョウを見てそう思った。
レオナは自分の食事を終わらせると、さっさと片づけを始める。
片づけを終わらせると、彼女はリョウの傍に置いてあった器を持ってこう言った。
「・・・・リョウ、食べないなら下げるわよ。」
リョウは、ちらりとレオナを見ると小さく頷く。
「うん・・・」



レオナは器を片付けた後、姿を見せなかった。
ふと、辺りを見回すとクロードもいない。
恐らく彼女と一緒だろう。
2人一緒なら、心配する必要はないな・・・そう思った。
今日は、月が出ている。
いざとなれば、クロードは人間の姿に戻れるだろうから。



それよりも・・・・
ルカは再びリョウに視線を戻す。
リョウは、ずっと遠くを見てぼんやりしていた。
きっと昨日の魔物の戦闘のことを考えているのだろう・・・
ルカは、胸が締め付けられる思いがした。
自分が、剣を持った彼に言えばよかったのだろうか。
力を過信してはいけない・・・と。
そう言えば、彼は聞いてくれただろうか。
こんなことには・・・ならなかっただろうか・・・
それに、自分が怪我をしたことで彼は更に落ち込んでしまった。
あれから、何度も彼は言うのだ。



「ごめん・・・」



俯いて、彼は言う。
ルカは何度も、その度に言った。
「リョウのせいじゃないよ。私がヘマしただけだから。」
しかし、彼は聞き入れなかった。
ただ、ごめん・・・そう繰り返すのだ。



「ルカちゃん」
自分を呼ぶ声がしてルカは声の方を向く。
サクラが手招きをしながら微笑んでいた。






「リョウ君、ずっとあんな感じだね〜・・・」
「はい・・・」
サクラとルカはリョウから少し離れた場所に腰を下ろしていた。
少し彼を一人にしておこうというサクラの案だ。
ルカも、自分が彼の近くにいない方がいいのではないか・・・と思いサクラの案に従った。
「サクラさん・・・」
「なんだい?」
ルカは、思い切って聞いてみることにした。
ずっと聞きたかったこと。
でも言えなかったこと・・・
「あの・・・サクラさん、知ってましたよね?」
「ん?」
「リョウが・・・その・・・剣を手に入れてから・・・」
「ああ、調子にのってたよね? リョウ君」
「な・・! そんな言い方!!」
サクラのどこかリョウを嘲るような言葉にルカはかっとなって声を上げた。



「まぁまぁ、落ち着いて?それで?」
「サクラさんは、どうしてリョウが自分の力を過信しているのを知ってて、あんなこと言ったんですか・・」
「あんな事って?」
「剣の使い方を教えてやる・・・とか、いい剣だ・・とか・・・」
サクラはずっとリョウの剣を褒めていた。
褒めすぎではないか・・・そう思うくらい。
リョウが自分の力を過信していたことも知っていたはずだ。
そして、それを知ってて・・・・



「レオナが言ってました。サクラさんも、知ってるはずだって・・・」
「何をかな?」
さっきから、からかう様な口調のサクラに、ルカは頭に血が上るのを感じた。
まるで、自分を見下しているような、そんな感じを受ける。
「武器が、自分の気持ちしだいでどうにでもなるってことです!」
威力の弱い武器でも、使う人物の腕と心で強い武器になる。
逆に、強い武器でも自分の気持ちが不安定なもの、過信したものだったらその本来の力を発揮できない。
レオナはそう言った。
自分でもそう思う。
そして、サクラも知っていたはずだ・・・



「うん、知ってたよ?」
サクラは微笑んで言う。
「それに勘違いをしてもらっちゃ困るなぁルカちゃん。」
その言葉にルカはやや戸惑いを感じた。
何を勘違いしているというのか・・・



「僕はさ、リョウ君を褒めた訳じゃない。リョウ君の剣を褒めたんだ。」
サクラは口元を上げる。
「剣を褒めたって、リョウが自分の力を過信することには変わりません!
強い剣を持ってるって!そう信じるじゃないですか!」
サクラの答えは、なんだかあいまいなものだ。
上手く逃げられている感じがする・・・
ルカの、やや強い口調にサクラは肩をすくめ、笑った。
穏やかな微笑み・・・。
でも、目は笑っていない。
眼鏡をかけてるから、目の表情までしっかりは分からないが、ルカは感じた。
まるで、相手を嘲るような、冷たい空気・・・。



「彼がそう思ったらそれでいいじゃないか。どうせ、ズタズタにやられるだけさ?」
「なっ・・・!」
ルカは息が止まりそうになった。
彼は、この男は、彼が、リョウがズタズタにやられてもいい・・・そう言ったのだ。
仲間のことを、リョウのことをそんな風に言うなんて・・・・!
「最低!!」
ルカは思わず腕を振り上げた。
しかし、サクラに簡単に掴まれる。
振りほどこうとしても、相手の力が強く、振りほどくことが出来ない。



サクラは自分の顔をルカの顔に近づける。
至近距離なので、ルカはサクラの瞳が不適に輝いているのが分かった。
サクラは口元を上げるとこう言う。
「それに、彼に言わなかったのは君だって同じじゃないか」
「!」
ルカの顔色が変わるのを見て、サクラは面白そうに顔を歪める。
「君は彼に言わなかった。そんなに言うなら、君が言えばよかったんだ。
リョウ、貴方は自分の力を過信しているわって・・・。
でも、君は言わなかった。だろ?」



「それは・・・・」
「それなのに、君は僕に、そんな事言える資格・・・あるのかなぁ?」
ルカは俯く。
そうだ。
自分は言えなかった・・・・。
言うべきなのか、迷った。
最初はただ、武器が手に入って嬉しい・・・そう思っていたのだと思った。
でも、武器を持ってからの彼は今までと違って、自信に満ち溢れている感じがした。
逆にルカは、それがとても危なく感じた。
言おうと思った。
リョウ、剣を持ったからって魔物を倒せるとは限らない。
一人で走らないでね・・・と
だけど、言えなかった。
力を持つ上で、一番大切な事・・・それは・・・
力を持ったからには、自分で気がつかなければいけないことだと・・・そう思ったから。
でもそれは、単なる言い訳なのかもしれない・・・。
取り返しのつかないことになったかもしれないのだ・・・。
自分が彼に言っていたら、今の状況はなかったかもしれないのだ。



私は・・・サクラさんを責める資格なんて、ないのだ・・・。
こんなの、単なる八つ当たりだ・・・。



「ル、ルカちゃん!?」
サクラが驚いた声を上げる。
ルカの目には涙が溢れていた。
声もあげず、ぼたぼたと涙を流す。
サクラはおろおろして、慌ててハンカチを差し出した。
まさか、泣かれるなんて・・・
困ったな・・・苛めすぎたとか・・・?
ど、どうしよう・・・



「ごめんなさい・・・・」
「ルカちゃん?」
「私、サクラさんに八つ当たりしました・・・」
「・・・」
「自分が、何も出来なかったから・・・」
そしてまた、涙を流す。
サクラのハンカチで涙を拭いても、またすぐに、涙が溢れてきた。



「ごめん・・・」
「へ?」
突然謝るサクラにルカは思わず声を上げる。
「ちょっと・・・苛めすぎたね・・・」
そう言ってサクラは困ったように笑った。
先ほどの冷たい空気は、もう感じない。
「僕も、言いすぎた・・・・。さっきのは、嘘だよ。ズタズタになってしまえばいいなんて、思ってない」
「・・・・」
「ただ、意図的に、リョウ君のことを煽ったのは、本当・・・。」
「ど・・して・・・ですか?」
「リョウ君が、自分の力を過信して、そして、現実を知って・・・そしてどのようにして、大切な事に気がつくのか・・・
興味があったから・・・」
そう言うとサクラはにっこり微笑んだ。
ルカは、呆然としてサクラを見つめる。



「それに、ルカちゃんも、正しかったと思うよ。リョウ君に助言する必要は、
なかったと思う」
「え・・・?」
「戦闘になる前から、自分の力を過信してる!なんて言って、はいそうですかって聞く人はいないよ。
それに、自分が過信しているなんて事自体にも気づいてないし、何よりその事を理解することは難しいと思う・・」
「自分の身をもって知るしか・・・なかったんだよ」
それに・・・とサクラは付け加える。
「?」
「いざ、リョウ君が危なくなっても、その為に僕らがいるんだから・・」
サクラはそう言うとにっこり笑う。
優しい笑顔。
ルカは、その笑顔を見ると、また涙を流した。
「ああっ!また! いい加減泣き止みなよ、ルカちゃん。君・・意外と泣き虫なんだね?」
サクラは苦笑して、ルカの頭を撫でる。



「ごめんなさい・・・」
「ん?」
「最低なんて言って・・・ごめんなさい・・・」
涙でぐしゃぐしゃの顔をしながら、ルカはサクラに言う。
サクラさんが、本気で言ってないなんて、どうして分からなかったんだろう・・・
「いやいや、僕の方が謝らなきゃね・・・。ごめんね?」
真剣に訴える彼女が、眩しかった。
だから、ついあんな事を言った。
まさか、泣いてしまうなんて思わなくて・・・・
自分の性格が・・・時々嫌になる。



彼女は、真剣なんだろう。
リョウのことに、責任を感じて。
落ち込んでいる彼に何もしてあげられない自分が歯がゆくて・・・。
そして、そんな彼女を軽く受け流している僕に対して腹を立て、
僕の言葉で、自分の矛盾に気がついて・・・いや、気がつかざるを得なくて・・・
そして、自分のその身勝手さに泣いて・・・
酷いことを言ったと言って、僕に謝って・・・



ああ・・・この少女は何て自分に真っ直ぐなんだろう・・・
なんて綺麗なんだろう・・・



サクラは目の前で鼻をすすっている彼女を微笑んで見つめた。
そんなサクラに気がついたのか、ルカは鼻を真っ赤にした顔で、小さく笑う。





彼は、リョウは、現実を知った。
これからどんな行動にでるのか・・・
どうやって、立ち上がるのか・・・
楽しみだ・・・
そうサクラは思った。



空は快晴。
綺麗な三日月。






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(サクラとルカ。 陰と陽・・・・)



2006/04/11