自分を責めるな・・・そう言うかもしれない。
これからが大事なんだ、そう言うかもしれない。
だけど、僕にとっては、そんな事で済まされることじゃないんだ。
そんな僕を、君はマイナス思考だと、笑うかい?
それでもいい。
僕は・・・
運命のさだめ 1
一行はアルデストに向かって、歩を進める。
もうすぐ森を抜ける。
ここを抜ければ、アルデストへの道のりはやや楽になる。
あれから、リョウは戦っていない。
リョウが戦って以来、魔物との戦闘は3回あった。
しかし、その3回、いずれもリョウは戦っていない。
いや、正確には戦えないのだ。
自分も前に出る、と言うが他の3人が絶対に彼を前線に出すことはなかった。
リョウは、魔物との戦闘直後の放心状態では、もうなかったがやはり、顔色はあまり良くない。
しかし、それは魔物との戦闘とのショックからではないという事は、皆知っている事だ。
彼は、一歩踏み出せないのだ。
魔物と戦い、自分の力を過信したリョウ。
その所為で、仲間が一人負傷した。
自分が、己の力を、中途半端に過信したから・・・
魔物と戦い、流れた血を目の前で見たときは、怖かった。
その所為で体が動かなかった。
これは事実だ。
でももっと怖かったのは・・・・
「リョウ、今日はここで野宿しよう?」
ルカは、隣を歩くリョウに向かって声をかける。
どうやら、自分がぼうっとしている間に今日はここで野宿することに決まったらしい。
「あ、ああ・・・うん」
我に返って、慌てて返事をする。
それを聞くとルカは笑って少し先を歩いていたサクラに声をかけた。
リョウは彼女の肩に巻いてある包帯に目を向ける。
あれは、魔物の血で体が動かなくなった自分を庇って出来た傷だ。
やや深い傷だったが、現在はだいぶ治癒してきているようだ。
僕のせいで、ルカは・・・・
リョウは握りしめた手に力を込めた。
出会った頃の彼女は言っていた。
死ぬのは、怖いと。
死ぬような危険に自分は遭いたくないと・・・。
でも彼女はレオナと会って、歯車のことを知り、自分の役割を知り、
そして、自分達と旅をすることになった。
リョウはその時に、こっそり決めたことがある。
彼女は怖いと言っていた。
死ぬのは怖い。
死ぬような危険な目に遭いたくない・・・。
ならば、彼女が少しでも怖い思いをしないように、自分が・・・・
自分が彼女の恐れるものを倒していきたい。
『怖いの。やっぱり・・・。リョウみたいにはなれないよ・・・・。』
レノールで彼女が言った言葉が思い出される。
まだ、彼女が歯車だと知らなかった時・・・。
ワンピースの裾を震える手で握りしめた少女。
君は、どうして今ここにいるんだろう・・・
あんなに、怖がってたのに。
あんなに、危険な目に遭いたくないと言っていたのに。
だけど、彼女は実際戦う術を持っていて、僕を守ってくれた。
庇ってくれた。
彼女に抱く感情は恋とか、そういうものではないと思う・・・。
実際、僕にその様なものはよく分からないから・・・。
でも、自分が守りたい、助けたいと思っていたのに・・・。
「・・・逆になっちゃったな・・・」
「え?」
ぽつりと漏らした呟きにルカが首を傾げる。
ううん、なんでもない・・・と言ってリョウは空を見上げた。
薄暗い、空だった。
食事が終わるとリョウは皆から少し離れた所に腰掛け、空を見上げていた。
やや冷たい風が彼の頬を撫でる。
今日は、眠るつもりはない。
見張りの当番だから・・・
でも、今の自分で、皆の役に立つのか・・・そんな思いもある。
マイナス思考だろうか・・・
だけど、本当にそう思ってしまうのだ。
「父さん・・・」
ふと、口から漏れたのは、今は亡き父への言葉。
父は何かにかこつけて、リョウにこの言葉をくれた。
「リョウ、この世の全ての人間には、役目があるんだ。大きくても小さくても
それは絶対に自分しか出来ない。存在してはいけない人なんていないんだ。
今は見つからなくても、そのうちきっと見つかる。お前だけの、役割が。」
そしてにっこり笑うのだ。
安心できるようなあの笑顔で。
ZEROを止めること。
それが自分の役割だろう。
だけど、今の自分は、それすら出来ない状態なんじゃないのか。
そんな思いがぐるぐる回る。
こんなこと、考えてはいけないのに・・・。
「星も出ていないのに、空を見上げるなんて変わってるね」
そのような声がして、リョウは声のほうに視線を移す。
仲間の声ではなかった。
知らない声。
少年だった。
漆黒の長い髪が風にのってサラサラと揺れる。
肌は白く、瞳は黒。
年齢はどの位だろう・・・同い年か、1歳程年上か・・・
旅人だろうかとリョウは少年を見る。
しかし、旅装とは程遠い格好だ。
マントは羽織っていない。
上着もズボンは、闇と同じ漆黒。
唯一、羽織っているショールだけが白い。
服の生地も、旅装の物のように丈夫なものでなくシルクのようにサラサラとした生地だ。
腰に付いているシルバーの飾りがキラキラと光っている。
「隣、いいかい?」
少年はリョウに問いかける。
人懐っこい雰囲気を持った少年だった。
頷くと、ありがとうと笑ってリョウの隣に腰掛ける。
「旅人かい?」
「あ・・うん・・・」
そっかと少年はまた微笑む。
「君は・・?」
「僕も」
リョウの問いに少年は頷く。
このような格好で?とリョウは疑問に思った。
しかし、聞かないでおく。
もし違ったとしたら、話したくない理由なんだ、きっと・・・
「あ、疑ってる?」
そんな雰囲気を悟ったのか少年は笑う。
「本当に旅だよ。こんな服でも、移動には困らないんだ」
「・・・そうなんだ・・・」
何か特殊な生地なのだろうか。
すぐに破けてしまいそうな少年の服を見てリョウは思った。
「何か、悩みがあるんだ・・・」
ふいに少年が口を開く。
え、とリョウが少年の服から顔に視線を上げると少年の視線とかちあった。
逸らすことの出来ない、不思議な力・・・
逸らそうとしても逸らすことが出来ない。
暫く視線を合わせていると、少年はにっこり笑った。
「そんな顔してた」
「・・・そうかな?」
「うん、僕でも分かるくらい。きっと、君の仲間も気がついてるよね」
「!」
どうして、この少年は自分が仲間連れだと分かったのだろう。
自分は、一言も言ってないのに・・・
「だって、あの火、君達のキャンプだろう?」
やや離れた所に灯る明かり。
リョウ達の野宿ポイントだ。
誰かが火を焚いたのだろう。
「うん・・・」
リョウが頷くと、少年はよかったと笑う。
あどけない、少年のような笑みだ。
「君、名前は?」
「・・・リョウ。リョウ・コルトット」
「へぇ」
「君は?」
リョウの問いに少年は、一瞬目を見開く。
そして暫くすると考えたように言った。
「僕には・・・名前はない」
「・・え?」
「名前なんて聞かれたの、初めてだよ」
少年はそう言ってまた笑った。
「名前がないなんて・・・」
「別に困らないよ。特に必要もないしね」
「そうかな・・・そんなことないよ」
名前が必要ないなんて、そんなことはない。
だったら、周囲の人は彼を何と呼ぶのだろう・・・
「ねぇ、リョウ・・・・」
「ん?」
「君は、力が欲しいと思ったことはないかい?」
突然の少年の言葉にリョウは息を呑んで、彼の顔を見つめる。
「そして、君は念願の力を手に入れて・・・・」
少年はリョウの腰に差してあった長剣を指差した。
「君は、自分の力を過信した・・・」
「!!」
顔色が変わったリョウを見て少年は微笑んだ。
しかし、彼の微笑みは先ほどのものと違い悲しそうな微笑だ。
「話をしよう・・・?」
少年はリョウを見つめ、小さな声でそう言った。
星の無いはずの空に、小さな星が一つ、見えた。
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(ターンポイントです)
2006/04/16