それは運命の出会い・・・そして定め。
逃げることは許されない。
どんなに逃げても、その定めは少年を追ってきて
そして必ず捕まえる。


今はまだ知らなくていい、知らない方がいい。
だって彼がその事を知るのは、そんなに先じゃないのだから・・・・・。


少年は彼と出会った。そして、姫君もまた・・・・・



運命のさだめ    2





「・・・・」
レオナは焚き火に薪を足しながら、ある一点の方向を見つめた。
クロードは彼女の肩に止まり、ささやく。
「どうしたんだい?」
近くにいたルカも、彼女の様子に気がつき声をかける。
「・・・魔物?レオナ・・・」
「いえ・・・」



そう言いながらも視線は外さない。
何だろう・・・この妙な感じは・・・
嫌な感じではない・・・と言って心地いいというものではない。
言いようもない、この感覚・・・。
何かに引っ張られるような、不思議な力・・。
ただ、彼女が思うのは、



「・・・行かなきゃ。」



そう、この感覚のまま、行かなければ・・・
どこへ?そんな事は分からない。
だけど、この感覚のまま進めば、どこかに辿り着けるだろう。



レオナは薪を置くとゆっくり歩き出した。
それを見てルカは声をかける。
「どこいくの・・・・?」
「レオナ?」
心配に思ったクロードも尋ねる。
レオナはゆっくり首を振り呟く。
「行かなきゃ・・・・私・・・」
クロードは目を瞠りそして、空を見上げる。
月が見える。
いざとなったら、元の姿に戻れる。
ルカもその事を確認すると、クロードに向かって頷いた。



「ルカは、ここにいて・・・。サクラさんが戻ってくるから。僕がレオナに付いていく・・」
サクラは現在、薪を集めにここにはいない。
ルカは頷くとクロードに言った。
「レオナを・・・お願いね・・・」
「もちろん」
金色の鳥は、目を細めて微笑んだ。












「話をしよう?」
リョウの前に現れた少年は悲しそうに微笑んで言った。
その表情に、目が離せない・・・



「話?」
「うん・・・」
今会ったばかりの少年だ。
しかし、何故か彼はリョウが力を欲していたことを知っていた。
そして、ようやくその力を手に入れたことも。
そして、リョウが自分の力を過信して、戦えなかったことも・・・・
何故、彼は知っている・・・?
何者なんだ?
リョウは相手を見つめる。
吸い込まれそうな黒い瞳。



「力を過信した者は、君だけじゃない・・・」
「え?」
「力を手に入れた者で自分の力を過信した者は決して少なくはない」
「・・・」
「当然だ。今まで自分が持っていなかった力。これで自分は身を護れる。仲間を護れる。
そう思うのは、もはや普通のことかもしれない・・・」
「だけど、理想と現実は違うものだよ。そして、彼らは力を持つ上大切な事が欠けていた・・・」
「大切な事・・・?」
「もちろん、君もね、リョウ」



少年はそこで言葉を切るとふっと笑った。
そしてまた話を続ける。
「僕はよく知ってるよ・・・。力を過信したことによって・・・全てを失った1人の少女のことを・・・」
「・・・・」
そして、少年は目を細める。
悲しそうな瞳だった。
「とても可愛らしい・・・少女だった・・・・」
そして、目を閉じる。











「レオナ・・・どこへ?」
「分からないわ・・」
ゆっくり歩きながらレオナはクロードに言う。
しかし、瞳だけはしっかり前を向いて、ゆっくり歩を進める。
しかし、その瞳がどこか普段と違ってクロードは不安になる。
まるで、彼女がどこか遠くに行ってしまうような・・・そんな不安。



「真実の眼を・・」
小さく呟くとクロードは人間の姿に戻り、レオナの隣を歩いた。
月明かりに彼の金髪が輝く。
「クロード・・・?」
「今の内に元に戻っておいた方が、何かあった時すぐに反応できるだろう?」
小さく笑うが、クロードの声色には明らかに不安の色があった。
レオナは小さく微笑むと呟く。
「ありがとう・・・・」









「大切な事って・・・何なのかな・・・?」
リョウが呟く。
それを少年が優しく見つめた。
「何だと思う?」
「・・・・皆、仲間は皆・・それを知っていたのかな・・・」
「きっとね・・・でも君には教えなかった。」
「どうして?」
リョウは少年の方を向いて尋ねる。



「きっと、君が自分で気がつかなければいけないと思ったんだろうね」
少年の言葉にリョウは俯いた。
自分は気がつかなかったのだ。
そして、そんな自分を心配してくれた仲間の思いにも・・・。
以前、レオナは自分に言った。



『気安く他人に自分の武器を渡さないことね、リョウ。』
彼女のあの言葉も、自分を思っての言葉だったのだ・・・・・
情けない・・・



『嬉しそうだね、リョウ。』
ルカが自分に言った言葉。
彼女はどこか不安げにその言葉を言った。
彼女も自分を心配してくれていた・・・・・・
なのに僕は・・・・



『ん〜・・・そう言っても僕は剣術は専門じゃないしなぁ・・』
剣を教えて欲しいと言ったときのサクラさんの言葉・・。
遠まわしに、我流は危険だから教えるべきではないと言っていたのかもしれない・・・
だけど、僕は無理に頼んで・・・・
サクラさんの気持ちに気がつけなかった・・・



「情けない・・・僕・・・情けない・・・・」
俯くリョウに少年はリョウの肩に優しく手を置く。
「だから・・・僕が教えてあげるよ・・・」
「え?」
「大切な事・・・・君に教える・・・」
そして、少年はにっこり笑った。



「駄目だよ!」
「・・・どうして?」
声を上げたリョウに少年は尋ねる。
「だってこれは・・・僕が自分で答えを見つけないといけないんだろ?」
リョウの言葉に少年は頷く。



「そう、君が見つけないと意味がない」
「だったら・・・!」
「だけど、君は気がついた」
「え?」
「君はもう気がついてる。だけど、それが言葉に出来ないだけ・・・だからこうして悩んでる」
「・・・」
「それにね、リョウ・・・」
「え?」
急に優しい声から真剣な声に変わった少年にリョウは見開く。



「君には、これ以上立ち止まってる時間はないんだ・・・」
「え?」
「君は、君達は、これ以上立ち止まってはいけない。
前に進むんだ。ゆっくりでいい・・・でも・・・」
少年の黒い瞳が真剣にリョウを見る。
「立ち止まっては駄目だ」
「・・・」
「立ち止まることは、許されない・・・。振り返ることは出来ない。
旅を続けるんだ。そして、この美しい世界を護れ・・・」



「ZEROを・・・止めるんだね・・・・」
「・・・ZEROを・・・?」
「そういう事だろ?美しい世界を護れっていう事は・・・。僕らは、そのための歯車なんだから・・・」
少年の瞳を見返し、リョウは言う。
真剣な、声で。
その瞳を見て、少年は目を閉じた。
そして、暫くすると目を開く。
そして、空を見上げるとこう呟いた。



「・・・・そうだね・・」







ガサッという音がして、リョウは音がした方を振り返る。
そして現れた人物にリョウは驚いて目を瞠る。
「レオナ・・・!?」
レオナの横にはリョウが知らない、少年の姿があった。
金髪の髪を1つにくくっている、儚げな容貌の少年・・・



「どうしてここに・・・?」
そうリョウが言う前に、隣に座っていた少年が立ち上がりレオナに近づいた。
レオナは一瞬目を見開くと、近づいてきた相手に冷たい視線を向ける。
リョウに初めて会った時のように・・・。



「誰・・・?」
冷たいレオナの言葉に少年はにっこり笑った。
「これはこれは・・・姫君は僕をお忘れとは・・・」
少年の言葉に隣にいた少年、クロードの手が腰の剣に触れる。
少年はそれを見ると微笑んだ。
「大丈夫、危害は加えないよ」



「私は、貴方なんて知らないわ」
「そうか・・・でも僕は知ってる」
「・・・」
「君が生まれたときから知っているよ、レオナ・スタルウッド」
「何者だ」
クロードが厳しい声で問う。
普段の彼からは、想像も出来ないような冷たい声だ。



「名はない。必要ないから・・・」
そして、レオナに視線を戻す。
レオナも冷たい視線で少年を見ていた。



「君は、僕を知らない。だけど、こうして僕の呼びかけに答えてここに来てくれた・・・
それだけで十分。それに・・・」
「何よ」
「君は、リョウと一緒にいた・・・それがとっても嬉しいよ」
「意味が分からないわ」
「まだ知る必要は、ないんだよ・・・姫君」
そしてまた微笑む。



少年は、レオナの手を取ると、軽く手の甲に口付けた。
レオナは小さく目を瞠ると少年を睨みつける。



「君がここにいて、彼らと一緒にいてよかった」
少年はそう言うとレオナを見つめる。
黒く、吸い込まれそうな瞳だとは思ったが、レオナはそれ以上にその瞳が持つ力の強さを感じた。
少年の瞳を見ていると、段々・・・頭が白くなっていく。



「・・・レオナ?」
クロードの声が遠くに感じた。
頭の中に流れてくるのは、あの風景・・・
11歳の誕生日、真っ赤な血の海・・・
周りに倒れている人々・・・


赤々と燃える炎・・・・
怒り、憎しみ・・・・



『邪魔する奴は容赦しない・・・!  殺せ!』



「やめて・・・」
小さくレオナが呟く。
その呟きはリョウには聞こえない。
聞こえたのは彼女の隣にいたクロードと、少年にのみ・・・。
クロードは腰に差していた剣を抜き、少年に突きつける。
それを見た少年は、驚いた顔をしたが、特に動揺は見せない。



「嫌なことを思い出したかな?そんなつもりじゃないんだけど・・・」
悲しげに少年は笑うと、レオナに向かってこう言った。



「君もそうだよ、レオナ。リョウにも言ったけど立ち止まっては駄目なんだ。
止まることは許されない。ゆっくりでも前に進んでもらわなきゃ・・・
でないと、世界は救われない」
レオナは一瞬目を瞠った。



「ね? 『忘れられし者の姫君』 レオナ・スタルウッド・・・・」



そう少年は言うと、後ろを向いてリョウの方に近づいた。
「さっき、教えられなかったね・・・」
「え・・・」
「大切な事」
にっこり笑うと少年は言う。
そう、あの悲しげな笑顔で・・・。
そして、リョウに聞こえる位の声の大きさでこう言った。



「力を持つ上で大切な事・・・それは・・・」
「・・・」

「               」


少年の言葉にリョウは目を見開き、そして小さく頷いた。
それを見ると少年は頷いてリョウ、そしてレオナとクロードに交互に視線を向ける。



「きっと、また会えるよ・・・リョウ、レオナ、クロード・・・・」
「それまで、暫くさよなら」




急に突風が吹いたかと思うと、少年の姿はどこにもなかった。
まるで、最初からそこにはいなかったかのように・・・・
ふと、レオナに視線を移すと、彼女は氷のような視線で、少年がいた場所を見つめていた。





立ち止まることは・・許されない。
振り返ることは出来ない。前に進め。
僕たちの旅は続く・・・・。   
そう、ZEROを止めるまで・・・。








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少しづつ明らかになっていく、少女の存在・・・。



2006/04/21