言えばよかった？
これでよかった？
答えは分からず、ただ結果のみがそこにある・・・



想いの果て




「リョウ、食べないと・・・」
ルカはスープの入った器をリョウに勧める。
しかしリョウはぼんやりした様子で、ただ「うん・・・」と言っただけだった。
ルカはそれ以上何も言わずに器をリョウの傍に置くと、自分が座っていた場所に戻った。
魔物との戦いから１日経った。
空は暗く、月が出ている。
綺麗な三日月。
リョウはあの戦闘の後、ずっとこんな調子だった。
ぼんやりとした調子で遠くを見つめている。



サクラは何度かリョウに視線を向けたが、何も言わず食事を続ける。
しかし、彼の器のスープはなかなか減っていないようだ。
レオナは、食事を済ませると器を片付け始めた。
クロードに「終わった？」と尋ねると、金色の鳥は微かに頷く。
彼女はそれを見ると鳥の前に置いてあった小さな器も一緒に運んだ。
片づけを終えると、レオナはリョウに視線を移す。
彼の器の中のスープの量は全く減っていない。
彼女はそれを見ると小さくため息をついた。
餓死するつもりだろうか・・・・。



「・・・リョウ、食べないなら下げるわよ。」
リョウの器を取るとレオナは彼に尋ねた。
リョウはその様子をちらりと見ると、小さく頷く。
「うん・・・」
本当に食べない気でいるらしい。
レオナは眉を寄せると本当に彼の器を片付けた。
スープがもったいない・・・・
小さくそう呟く。



リョウはずっと遠くを見ていた。
頭に昨日の戦闘がフラッシュバックする。
突き刺した剣。
ローブの袖にべっとりついた魔物の血。
突然の恐怖。
動かない体。
そして、彼女が受けた傷・・・。
自分は、思い上がっていた。
実際の戦闘は、学校で習った授業とは違う。
そんなの、分かっていたはずなのに・・・。
レオナやサクラ、彼らの今までの戦闘を見ていて、
そんなこと、分かっていたはずなのに・・・
力を持ったから、大丈夫。
倒せる・・・・。
そう考えていた。
・・・馬鹿だ。



リョウは抱えていた膝に顔をうずめた。
本当に・・・馬鹿だ・・・。







「馬鹿よね・・・・」
リョウたちが野宿している場所からやや離れた場所でレオナは呟いた。
目の前には、月が見える。
優しい光を放つ、綺麗な三日月。
夜風が体に当たる。
気持ちいいけど、少し寒い。
そう思っていると彼女の肩にマントが掛けられた。
「風邪ひくよ。」
金髪の少年が隣に立ち、微笑む。
レオナは自分に掛けられたマントと隣に立つ少年を交互に見ると
「ありがと」
そう言って小さく微笑む。
「座っても？」そう少年が言うとレオナは頷く。



「で？誰が馬鹿だって・・・？」
隣に座ると、少年、クロードはレオナに尋ねた。
声音は穏やかで、優しい。
レオナは真っ直ぐに月を見ると呟く。



「リョウ・・・馬鹿よね・・・」
「どうして？」
クロードは穏やかに尋ねる。
「力を持っただけで、自分は何でも出来る、守れる・・・なんて思っていたんだから・・」
「そして、現実を知って、ああして落ち込んでる・・・・」
そこまで言うとレオナは小さく口元を上げた。
どこか、自嘲的な笑いだった。
瞳を見ると、微かに潤んでいるようにも見える。
それは、月の光によるものなのか、実際に潤んでいるのか、クロードには分からない。
でも・・・



「うん・・・そうだね・・・」
クロードの答えにレオナは目を瞠って彼に視線を移す。
彼がそう言うとは思わなかったからだ。
クロードはレオナを悲しげに見つめてこう言った。
「まるで、僕らと一緒だね・・・」
「まるで、今のリョウは・・・あの頃の僕らと同じだね・・・」
クロードは繰り返す。
穏やかに、優しく・・・・
「君は、そう言いたかったんだろ？レオナ・・。」
「馬鹿だって言っていたのは、自分のことだったんだろ？」



力を持っていた。
自分の力を過信した。
守れると思った。
そう信じていた。
あの時の自分・・・



だけど、現実は違って・・・
私が、守れたものは何もなかった。
私は、愚かだった・・・。



「大丈夫だよ、リョウは。」
「え・・・」
突然のクロードの言葉にレオナは思わず、声に出す。
「彼は、まだ間に合うよ。」
そう言ってにっこり笑う。
「彼は力を得た。そして自分の力を過信した。そして、現実を知った」
「ええ・・・」
「だけど、まだ何も失っていない。」
「・・・・」
クロードの微笑みにレオナは思わず目を細める。



「僕らのようにはならないよ、レオナ。」
「・・・・もちろん、彼が元気になるにはもう暫く時間が必要かもしれないけどね」
そして、クロードはレオナの頭にぽんと手を乗せた。
「君が剣を手にした彼に何か言っても、
それは結局、彼が自分自身で気がつかなければならないことだから」



「それに・・・」
「？」
「君もそうさ。」
「何が？」
「守れたものは何もなかったって言うけど、それは違うよ。」
レオナの頭から手を離すとクロードは言った。
「君は、僕を守ってくれた。」



「ありがとう」
そして優しく、少年は笑う。
風がクロードとレオナの髪を揺らす。



クロードの言葉にレオナは顔を歪めた。
彼女はクロードの服を上から掴むと地面に押し倒した。
芝生がガサッと音を立てる。
クロードは起き上がろうとしたが、それは出来なかった。
レオナはクロードの胸を軽く叩いた。
何度も、何度も。
「私はっ・・・貴方にお礼を言ってもらう資格なんてないっ・・・！！」
クロードの服の上に水滴が落ちる。
「どうして？　どうしてそんな事言うのっ・・・！」
「・・・助けられて、お礼を言うのは当たり前だよ・・レオナ」
苦笑して、彼は言う。



「いっその事、恨んでくれた方がどんなに楽か・・・・」
「どうして、君のこと、恨む必要があるんだい？」
レオナはその言葉に顔を上げる。
クロードは微笑むと体を起こした。
「だって、私は・・・っ！！」
声を上げようとしたレオナの唇を人差し指で制す。
「僕は、君に感謝することは何度だって出来る。でも恨むことなんて、出来ないよ。」



少年はそう言うと、「ね？」と笑った。
そして、少し遠く離れた自分達の野宿の灯を見ると目を細める。
力を得た少年。
力を過信し、現実を知り、
今は自分の過信を悔いている少年・・・
でも、大丈夫だ。
今は少し時間が必要なだけ。
そうすれば、彼はきっと更に成長を遂げるだろう。








彼は、まだ間に合う。
大丈夫・・・。





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（募るのは、少女に対する感謝の気持ちと愛しさのみ・・・）




2006/04/09