何度言っても足りない、「ごめんなさい」
何度言っても足りない・・・

「ありがとう」





その黒服、喪服につき





「・・・これで全部?」



買い物メモをくわえて肩に乗っているクロードに尋ねると
金色の鳥はメモをくわえたまま、こっくりと頷く。
レオナは今買った薬を鞄に入れると、その口をしっかり閉じた。



「思ったより早く終わったね。どうする?」
「え?」
「少し、周りの店を回っていかないかい?」


突然のクロードの誘いに一瞬戸惑うが、レオナは小さく頷いた。
実のところ、いろいろな店があって少し見てみたいと思っていたのだ。
周りには、珍しい装飾品や、可愛らしい服やなどの店が沢山ある。

女の子らしい、可愛いものが嫌いと言ったら嘘になる。
レオナだって一応、年頃の女の子だ。
ただ、自分には似合わないと思っていたし、可愛らしい装飾品や服など
旅では邪魔でしかない。
ただやはり、興味はあるのだ・・。



見るだけなら、別にいいわよね・・。





レオナとクロードは1件の店に足を踏み入れた。






落ち着いた雰囲気のその店には、女の子しかいなかった。
皆、友達と話しながら装飾品を見ていたり、ローブを試着したりしている。
女の子らしい華やいだ雰囲気に、レオナは一歩たじろいだ。
クロードも、この独特の雰囲気に気後れしているようだ。
彼女の肩に止まったまま微動だにしない。
大丈夫?と声をかけると、1、2遅れて、「ああ・・」と呟いた。



「あらあら、いらっしゃいませ。」


店主らしい女性がレオナ達に気がついたのか声をかけた。
「どうぞ見ていってくださいね」と人の良い笑みを浮かべる。



レオナは近くにあったローブを手に取った。
真っ白のローブ。
シンプルなデザインだが、袖や裾に同じ白い糸で細かい刺繍がほどこされている。
旅用ということで生地も丈夫で炎にも耐性があるらしい。
細かな刺繍に見惚れていると、先ほどの店主がレオナの隣に来た。


「綺麗でしょう?女の子に結構人気なんですよ。この刺繍が気に入ってるんです。」
「・・・ええ・・。とても綺麗・・・。」



まるでドレスのような真っ白なローブ。
何も汚れを知らないような、白いローブ・・・。
これを着たら、自分もそんな無垢な人間になれるような・・。



「試着してみます?」


レオナがそのローブから目を離さないのを見て、店主はくすくすと笑って言った。
彼女から見たら、レオナもこの店に来る女の子達と同じようなものなのだ。



「え・・・。」


店主の言葉にレオナは躊躇した。
自分が、この服に袖を通していいのか?
こんな真っ白な服に。
汚れを知らないような、綺麗な白に・・・・。




自分の汚さで、この白が汚れてしまわないだろうか・・・・。



暫くレオナは俯いていると、耳元に声が聞こえた。


「着てみたら?レオナ。」


クロードだ。他の人間がいることもあって、声をかなり低くしている。


「買うかどうかは別だよ。袖を通すだけでもいいんじゃないかな?」
「・・・。」
「それに・・」


ここで言葉を切ったのでレオナは不思議そうに肩に乗っている鳥を見た。


「きっと似合うと思うよ。」


金色の鳥は目を細めた。











「わぁ!よく似合うわ!」


真っ白なローブに袖を通したレオナに店主は嬉しそうに笑う。
レオナのストレートの長い、栗色の髪はローブの白によく映えていた。
彼女が手を上げると長めの裾がふわりと揺れる。
まるで、このローブに袖を通すことを許されたのは彼女だけであるかのように
似合っていた。



白という色でもあってどこか高貴な雰囲気を醸しだす。
しかし、それが色だけでなく少女から感じるということは店主も含めて皆感じていた。
それまで、装飾品を見ていた少女達も、それを忘れてレオナに見惚れていた。
少女は、その端正な顔をうっすら朱に染めるとクロードに視線を移した。



暫く見惚れていたクロードは彼女の視線に気がついて慌てて微笑んだ。


「似合ってるよ。」


肩に止まるとささやく。
その言葉を聞くと、レオナは軽く目を瞠る。



白が・・・似合うと、そう言ってくれるのか。
私に、白が似合うと・・・・。
貴方に酷いことをした私に・・・・



「・・・ありがとう。」



それは自然に出た笑顔。
いつもの微笑みではなく、口元を上げるだけの薄い笑みでもなく、
7年前に出会ったあの頃と同じような、無垢な笑顔。
その笑顔を見た周りの少女たちは頬を朱に染めた。



『ありがとう、クロード。』



あの頃も彼女は自分にこう言って笑ったのだ。
真っ白なワンピースを着て、栗色の髪を揺らして。



クロードは自分の姿を、この時呪った。
人間の姿ならば、今すぐ彼女を抱きしめられるのに。




「どうしますか?もし良かったら、このローブ、プレゼントしますよ。」


店主はレオナに声をかけた。
戸惑うレオナに優しく微笑む。

「ここまで、似合う人、初めてですもの。貴方、絶対黒より、白のほうが似合うわよ?」



黒より、白・・・・・




レオナは大きな鏡の前に立った。
白いローブを着た自分が全身、映っている。



そうだろうか・・・・



鏡に背を向けて、クロードの方を向こうとしたときレオナは動きを止めた。



これは・・・あの時と同じ・・・・




真っ白なワンピース。
栗色の髪。


自分の11歳の誕生日・・。
私は、お気に入りの真っ白なワンピースを着ていた。


クロードと出会った日。
忘れもしない、あの日。


あの日、私は、私の真っ白なワンピースは、

お気に入りのワンピースは・・・・




多くの人々の血で真っ赤に染まった。



『殺せ!!』
『悪魔め!!』



『スタルウッド家の者は、一人も生かすな!!』


『逃げなさい、レオナ!』

『愛しているわ、私の可愛い娘』

『きっとだ、きっとまた、会える、レオナ・・・』

『クロード、レオナを、娘を頼む。』





あの日の出来事が頭を駆け巡る。
今でも鮮明な、あの血の海。
皆の言葉が、頭を回る・・・・。



「レオナ?」


クロードが肩に乗ってもレオナは
気がつかない。

そう、私は、白なんて似合わない・・・。
白なんて着てはいけない・・・。



多くの血を浴びた私は・・・・・


死ぬまで、黒い服を着ると決めたのだから。






数分後、レオナは店を出た。
手にはもちろん、あのローブはない。



先ほど、笑顔を見せた少女とは別人のように、いやあの笑顔を見せた方が別人だったのか
彼女の表情は氷のようだった。








もしも、時間が戻すことが出来るなら、店に入る前の時間に戻したい・・。
クロードは、彼女の肩でそう願った。





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(記憶の断片・・・消せることの出来ない真実・・。)




2006/2/13