守られるだけは、嫌。
前に出ないのも嫌。
自分の身くらい、自分で守れるんだから・・・。
私は、その術を持っているんだから・・・!
だけど、気持ちと行動はいつも矛盾していて、
気がつくと背中を丸めて蹲っている自分がいた。
そんな自分は嫌いよ・・・。
大嫌いよ・・・。
私は・・・・
華麗に舞え、蒼の華よ
「じゃあ、次はここ?」
地図を指差して、リョウはレオナに問う。
食事が終わると、彼らはテーブルに地図を広げ覗き込んだ。
彼の指が示しているのは一つの町。
そこには「アルデスト」と名前が書いてあった。
彼はこの町を知ってる。
父親同様、考古学が好きなものなら1度は行ってみたい町。
考古学者にとってまさに、夢の町。
そう、この町は、遺跡や、古代文明等の研究が最も発達した町であった。
リョウの父親は言っていた。
「一度、リョウをアルデストに連れて行きたいよ。きっと喜ぶ。」
遠い記憶だが、今でもはっきりと覚えている。
あの時の父の優しげな表情。
「そう、ここは古代文明や遺跡研究が発達しているから。ここなら
過去の伝承について、何か分かるかもしれないわ。」
レオナはリョウの質問に淡々と答えた。
リョウの隣ではサクラがどこか楽しげにふーんと相槌を打っている。
レオナはそんなサクラをジロリと一瞥したが、すぐに視線を地図に移した。
「・・・ルカは?」
蒼色の髪の少女がいないのに気がつきレオナは辺りを見回す。
それに気がつきリョウも周囲を見渡した。
地図に真剣で、まったく気がつかなかったのだ。
「ルカちゃんなら、頭が痛いって言って、ついさっき部屋に戻ったよ?」
サクラがリョウを見て、にっこり笑う。
体調悪いみたいだね〜と続けて言った。
そういえば、ルカは以前も似たような事を言っていた。
レノールでルカと初めて会った時だ。
ZEROの刺客から逃げる時に、急に苦しくなって逃げ遅れた・・・と。
病気なのだろうか・・・・と心配になる。
普段はあんなに元気で、今朝も、僕に水をかけてまで起こしたくらいなのに・・・。
レオナは暫く考えた後、肩に乗っている金色の鳥に声をかけた。
「クロード・・・。」
その声を聞いて、鳥、クロードは一瞬目を瞠る。
しかし、すぐに彼女の意図を読み取り、肩から飛び立って行った。
何だろうとリョウは飛び立つクロードを見ていたが、すぐに、また地図に視線を移した。
頭の中では、ルカのことを考えていたけど・・・。
部屋の中では蒼い髪の少女がベッドにうつぶせになっていた。
顔色は青白く、生気がないようだ。
さっき、リョウに水をぶっかけた少女と同一人物とは思えない。
クロードはルカの傍に止まると、彼女に優しく声をかけた。
「ルカ?」
その声を聞いて、ルカは目を開ける。
金色の鳥の姿を確認すると、にっこり笑った。しかし、その笑顔はどこか弱々しい。
「気分でも、悪いのかい?」
「少し・・・頭が痛いだけだから・・・大丈夫。」
クロードの問いにしっかりした声で答える。
そして、のろのろと起き上がった。
しかし、彼の瞳からは不安の色が消えない。
「レオナが心配していたよ?」
クロードのその言葉にルカは微かに目を瞠った。
レオナが・・・?
自分を・・?
「意外かい?」
「え・・いや、そういう訳じゃ・・・」
慌てて手を振ったがクロードはクスクスと笑った。
そう、彼女はそう見られてもおかしくない・・・。
でも自分は知ってる。
彼女は誰よりも優しい。
そして、誰よりも臆病だ。
「僕をここに向かわせたのもレオナだよ。」
「え・・そうなの?」
一瞬きょとんとするが、ルカはすぐに笑顔になった。
自分を気遣ってくれたことが嬉しい。
レオナは・・・優しい。
「ルカ、その頭痛は、持病かい?」
彼女と出会ったときも彼女は頭痛に襲われていたようだ。
レオナが、そう言っていた。
現に目の前にいる彼女の顔色は真っ青だ。
「持病って程のものじゃなくて、時々痛くなるだけなの。少し休めば良くなるし。」
薬を飲んでもよくはならない。
時間のみが回復する術だ。
自分でも、この頭痛はよく分からないが、これまでは気にせず生活してきた。
ただ、これから旅をするにあたって、足手まといにならないか、
それだけが心配だ。
皆の負担だけには、なりたくない・・・。
「そうか・・・よかった。じゃあ、治まったら出ておいで。僕らは奥にいるからね。」
その言葉に頷くと、クロードは安心した様子で戻っていった。
「本当・・・どうしたんだろうね・・・私・・。」
この頭痛はいつからだったか。
残念ながら思い出せないが、最近のものではない気がする。
それに、頭痛と同時に妙な感覚が頭をよぎるのだ。
まるで、頭の中を誰かに探られているような、変な感覚。
自分でも気持ち悪いと思いながら彼女は再び目を瞑る。
「あ、ルカ。体調は大丈夫?」
暫くして、部屋から出てきたルカにリョウは声をかける。
彼女は、うんと返事をして辺りを見回した。
「皆は?」
部屋にいるのはリョウだけで、他の2人の姿はない。
クロードもいないようだ。恐らくクロードはレオナと一緒だろう。
リョウは笑って言った。
「明日の朝、発つことになったんだ。他の皆は買出しに行ってるよ。僕もこれから
行くんだ。ルカは、どうする?休んでる?」
そう言ってリョウは荷物袋を肩にかけて、ルカを見る。
ルカはそれを見て言った。
「ううん、もう大丈夫。一緒に行く。」
宿を出ると、ルカはリョウの買い物メモを覗き込んだ。
「買うものは薬とか、食料とか?」
「え、いや・・・それはレオナやサクラさんが買ってきてくれるんだ。」
「・・・じゃあ、私達は何を買えばいいの?」
食料と、薬品以外は、特に必要なものはない気がする。
しかもそれを残りの2人が買ってきてくれるとなれば、自分達が買ってくるものはないようだが・・。
リョウは、それを聞くと困ったような、照れたような、よく分からない表情になり、
ごまかしのためか、頭をガリガリと掻いた。
あーとか、うーなど、よく分からない言葉まで発している。
「ルカ・・・笑わない?」
「う、うん・・・笑わないよ?」
その言葉を聞くと、リョウはほっとした表情になり意を決したようすで口を開いた。
「僕、武器を買いに行くんだ。」
「武器?」
きょとんとして聞き返すとリョウは苦笑して続ける。
「うん、僕サクラさんやレオナみたいな能力もないだろ?今も武器は短剣しかないし・・・
だから、何か武器を買おうと思ってさ。
あ、一応学校で武術訓練は受けてるんだよ?
結構、成績も良かった。実戦でどうか・・って聞かれると分からないけど。」
そう言って照れ隠しにくしゃっと笑う。
リョウは自分が戦力の足手まといにならないか、密かに気にしていた。
これから、ZEROの手下との戦いも増えるだろうに・・・。
それにいち早く気がついたのはサクラだ。
なので、今日、買出しに行く時にリョウに声をかけたのだ。
「リョウ君、君は武器屋に行ってきても構わないよ?行きたいんだろ?」
サクラにはリョウの考えていることが分かっているようで、それ以上は何も言わず、
さっさと宿屋を出てしまった。
レオナも何も言わずに、外に出て行く。
恐らく、今の言葉である程度理解したのだろう。
なので、彼は2人の好意に甘えて、武器屋に行こうと思っていたのだ。
「そうなんだ。私も見たいな・・・。何かいいもの、あるかもしれないしね。」
ルカはそう言ってふふっと笑う。
しかし、リョウはその言葉を聞いて固まった。
今・・・何て言った?
「る、ルカ・・・・、」
「なぁに?」
固まったリョウに対し、ルカは怪訝そうに首をかしげる。
何かおかしなことを言っただろうか・・・?
「ルカ・・君もしかして、戦うの?」
訂正、正確には「戦えるの?」だ。
ルカはレオナやサクラのように能力者ではない。
と言って、武道家でもない。
旅一座であちこちを旅していたのだから、リョウみたいに
武術訓練を受けているわけでもないだろう。
ZEROの手下の力は強力だ。
ルカは戦わずに、離れていた方が・・・・
リョウの考えはそこで終わった。
ルカが怒ったような、睨みつけるような表情でこちらを見ていたからだ。
「・・・ルカ・・・?」
どうしたの?と聞く前に彼女はリョウを置いて武器屋の方に駆けて行ってしまった。
何か、気に障るようなことでも言ったのだろうか・・・・。
武器屋でリョウは、初心者向けと言われた長剣を買った。
持つところがしっかりした作りで、重さも軽めで振りやすい。
少し値がはったが、それは最初に老婆が自分に持たせてくれたお金で払うことが出来た。
お金を払うと、リョウは先に着いてるはずであろう、ルカの姿を探す為辺りを見回す。
しかし、どこにも彼女の姿は見つからない。
先に戻ったのかな・・・・
しかし、その考えはすぐに打ち消された。
奥のほうで彼女の声がしたからだ。
「じゃあ、これでお願いします。」
「はい、ありがとう。しかし、お嬢ちゃんこれ使えるのかい?」
「ルカ?」
声のするほうに向かって顔を覗かせる。
そこには、細身の剣を持ったルカの姿があった。
彼女の持つ剣は、細く、長い、まるでニードルのように鋭い刃を持っている。
これを・・・彼女が使うのか?
「ああ、リョウ。買い物終わった?」
「え・・うん・・。」
笑顔でこちらに話しかけてくる少女に気後れして、リョウは頷く。
じゃあ、戻ろうかと言って、2人は店を出た。
「ルカ・・・」
「何?」
「それ・・・使えるの?」
細身の剣。扱いがとても難しそうだ。
どこか、彼女は武術なんて出来ない、という先入観があってリョウは尋ねる。
それは、ルカが普段、舞を踊っていて柔らかな印象しかないのだからかもしれない。
しかし、その言葉は彼女の気に触れたらしい。
ルカは無言でリョウをひっぱり、人気のない場所に連れて行った。
離れててと警告すると、いきなり剣を抜く。
ヒュッ
空気を切る音がして彼女は剣を振る。
右へ、左へ、そして、回転して振り下ろす。
まるで剣舞を見ているかのような優雅さが、そこにはあった、
優雅でそれでいて・・・鋭い剣の舞・・・。
「どう?リョウ。」
少女の微笑みにリョウは唯、唖然とするばかりだった。
守られるだけは、嫌。
前に出ないのも嫌。
自分の身くらい、自分で守れるんだから・・・。
私は、その術を持っているんだから・・・!
今まではずっと、ずっと1歩踏み出せないでいた。
怖かったから。
だけど、そうも言っていられないから。
覚悟を決める。
そして、踏み出す。
嫌いだった自分を、少しでも変えたい、そう思う・・・。
BUCK/TOP/NEXT
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2006/2/4