思い知るんだ・・・・
僕は、何て安全な場所で生活していたんだろうって。
剣を持つことが、こんなにも重いことだなんて、
知らなかったんだ・・・。






背負うもの。  1




一行はアルデストに向かって歩を進めていた。
現在は深い森を進んでいる。



アルデストへの道のりは長い。
現在地よりもはるか北に位置していて、徒歩で約1ヶ月。
馬車を使ってもその半分の時間はかかる。



考古学の最先端の町ということはあって、町の中の資料館には沢山の貴重な資料があるらしい。
首都など、ごたごたした場所にこれらは置けない。何かと物騒だ。
首都の慌しい雰囲気では落ち着いて研究も出来なく、学者たちの望みを聞き入れ
首都からやや離れた場所にアルデストの町を作ったと聞いた。




研究以外に、観光名所等もないので考古学に興味がある人以外はあまり訪れない。
しかし逆に、興味のある人はその魅力にとりつかれ、そこに永住する人もいるようだ。




「ふふっ」
「・・・どうしたのルカ?」


突然笑い出したルカにリョウは首を傾げる。


「いや・・・ごめんね。今の話聞いたら、リョウもアルデストに着いたら永住しそうだな〜って思って。」
「いや、それはないよ。」
「そうかな・・・。保障は?」
「う・・・・・」





リョウが考古学を好きだということは、もう全員が知っていることだった。
宿屋に着いたらずっと考古学の本を読んでいるのだから、知らないという方がおかしい。
更に、彼は誰かに遺跡の話を聞いてほしいらしく、時々誰かを捕まえては、今まで見た遺跡について延々と語るのだ。
普段の黙って本を読んでいる時の印象とは違って、熱く語る彼の様子に最初こそ戸惑ったが現在は皆慣れっこのようで
適当な相槌を打って聞いている。



皆・・と言ってもレオナは我関せずといった様子で聞くそぶりは見せないし
サクラはリョウが話そうとするとなぜか突然、眠くなっちゃったな〜と言って自室へとひっこんでしまう。
クロードは・・・鳥である。



相槌を打ってくれるのはルカだけだ。
彼女は旅一座に居ただけあって、他の地方の話には興味があるらしい。
サクラもリョウのその手の話し相手はこっそりルカに任せてしまっている。







「と、とにかく僕はZEROの事が終わらない限り、遺跡発掘はお預けだからさ。」
「ん。そうだね。」



真剣に言ったのに、からかう様な口調のルカにリョウは少し膨れた。
しかし、アルデストに着いて、絶対に平常心でいられるかと聞かれたらかなり答えに詰まってしまう。




「・・・・男の子ってみんな、ああなのかしら・・・。」


レオナはこっそり肩に乗っているクロードに尋ねた。
周囲に聞こえないように、かなり小声で話す。



「リョウは、考古学が好きだからね。好きなものには誰でも熱中するものだよ。
もっともそれは、男女関係なくみたいだけど。」

クロードは目を細めて後ろを歩くリョウを見る。



「・・・今、誰かと話していなかったかい?レオナちゃん。」

レオナの前を歩いていたサクラがふいに振り向いて彼女に尋ねた。
口もとが微かに上がる。


「・・・・別に。空耳でしょう。」

レオナは表情を崩さずに返答した。




・・・・この男は、苦手だ。







数時間か歩いて、大きな木の下で休憩しているとサクラがリョウの隣に腰を下ろした。


「リョウ君、新しく買った剣見せてもらってもいいかなぁ?」
「あ、はい。」

リョウはサクラに長剣を渡す。
サクラはそれを受け取ると、鞘から抜き、刃を太陽に掲げて見つめる。


「ん。いい剣だね。握りもしっかりしてるし、刃も丈夫そうだ。重さも重すぎず、軽すぎず・・・・
初心者にはもってこいだね」
「そうですか?」

サクラの言葉にリョウは顔を輝かせる。


「使いやすいと思うよ。よかったね、リョウ君。いい剣が見つかって。」
「はい!」

サクラから剣を受け取りリョウは剣を鞘に戻す。



これで、僕にも力がある・・・。
皆を守る力・・。
これで・・・僕も戦える。




リョウは無意識に剣を抱きしめる。
その表情には、どこか満足げなものがあった。









「・・・気楽ね。」
「レオナ?」



リョウとサクラを少し離れていた場所で見ていたレオナは吐き捨てるように言った。
その表情にはどこか、いらついたものがある。
レオナの隣に座っていたルカは彼女の言葉を聞き、思わず声をかける。
傍を飛んでいたクロードもレオナの方に視線を移した。



「・・・どうしたの?」
「いえ・・・別に。」
「リョウ達のこと?」



ルカは自分たちと少し離れた場所に座る少年たちを、ちらりと見た。
リョウは町で買った剣を握り締めてサクラに何か話している。
サクラはそれに笑顔で答えているようだ。



「リョウ、嬉しそう。」
「初めて剣を持ったみたいだからね。」


ルカの言葉に答えたのはクロード。
レオナは再びリョウの方に視線を移すと、はあっと溜息をついた。


「まるで、おもちゃを貰った子供ね。」
「リョウが?」
「そう。」

戸惑いを見せるルカにレオナは淡々と言った。




「おもちゃで敵は倒せない。」
「・・・。」
「どんな武器でも気持ち一つでおもちゃになるわ。
武器をどんな風に変えてしまうのかは、その持ち主次第。」

レオナの表情は崩れない。


「・・・私は、それを身を持って知ったわ。」
「レオナ・・」

クロードは不安げな表情をしたが、レオナは続ける。
レオナはルカを見つめる。



「ルカも・・・それを知っているはずだわ。」
「・・・・。」
「え?」

クロードはレオナの言葉を聞いて隣にいるルカに視線を移した。
ルカは一瞬、目を瞠る。
しかし、すぐに表情を引き締め、レオナを見つめた。


「・・・そうだね・・。知ってる・・。」



以前、邪気にとりつかれた魔物に襲われた時に何も出来なかった自分。
あの時、自分が魔物の前に出て行き、一緒に戦わなかったのはレオナが下がっててと言ったからでも
武器を持っていなかったからでもない。
怖さで体が動かなかったのだ。
十字架の痣・・・それを持っている自分が狙われている。
殺される・・・その恐怖の方が勝ったからだ。
それ以前に、自分が十字架の痣を持っていると、歯車であると認めるのが怖かったからだ。




もしかしたら、レオナは自分に戦いの心得があると見抜いていたのかもしれない。
それで敢えて、自分を下がらせたのは、自分の心の中にある迷いを、恐怖を感じたからであろうか。



レオナは不思議な少女だとルカは思う。
彼女は、過去に何があったのだろう・・・。
彼女の冷たい視線の中に、周りを気づかう暖かいものが含まれているようにルカは感じた。




本当は、彼女は誰よりも、誰よりも優しくて、傷つくことを恐れているのかもしれない・・・。




「それにしてもあの男、たちが悪いわ・・・。」
「へ?」
「・・・サクラ・・・。」
「どうしてだい?レオナ」


レオナが吐き捨てるように言うとルカとクロードは顔を見合わせる。
レオナはリョウの隣に座って微笑んでいる青年を睨みつけた。
その視線に気がついたサクラは、にこにこと手を振っている。


「・・・あの男も知っているはずなのに・・。武器は、持ち主によってどうにでもなること・・。」
「・・・」
「なのに、それを黙って、リョウをあおるような事ばかり言う・・。」





リョウはきっと思うだろう、力を手に入れたら自分を守れると。
周りの人間を守れると。
そして、自分の持つ剣の力を過信するだろう。



彼には・・・剣をもつ上で大切なものが欠けているのだ・・・。






レオナは離れた場所で嬉々として剣を見つめている少年に視線を移した。











BUCK/TOP/NEXT










----------------------------------------------------------------------------

この話は1〜3まで。もう少し続きます。