まるで、定められていたシナリオのように私達は出会って・・・・
そして当たり前のように惹かれていったんだ・・・
貴方のその髪に、貴方のその表情に、貴方のその声に、仕草に、
そして、光のような優しさに・・・・



私が見るには、眩しすぎるくらいの貴方の存在に、
怯えるではなく、手を取ろうともがいたのは、きっと気の迷いなどではないのだろう・・・。




運命という言葉を、思わず信じてしまうくらいに
それはあまりにも自然だった・・・・








親愛なる少年と少女へ  1    〜少女は光を欲し〜





朝日が差し込む。
自分の顔に差し込んだ光を感じ、少女はゆっくりと体を起こした。
部屋の大きな窓を覆っているカーテンを開けると太陽の光が全身を包み込む。
暖かい・・・・そう思った。
生命の力を感じる。
全ての生命の象徴でもあるような、太陽の光。
窓の外の緑の鮮やかな色が目に入る。
窓を開けて入ってきた風が、少女の栗色の髪を揺らした。
肩の下まで伸びたそれは、少女の頬をくすぐる。




優しい風の気持ちよさに暫く目を閉じているとトントンと部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
その返事を受けて顔を出したのはいつも彼女の世話をしている1人の女性。
黒髪のその女性は彼女を目に留めると、優しく微笑んだ。





「レオナ様」
その声に、少女、レオナは振り返る。
女性の手には小さな花瓶が握られていた。
花瓶には、小さな花がいくつか挿してある。



「おはようございます」
「おはよ」
女性が微笑んで挨拶をするとレオナもにっこり笑って挨拶を返す。
「綺麗に咲いていたので持ってきましたよ」
そう言って女性が机の上に持っていた花瓶を置いた。
薄桃色の、可愛らしい小さな花を見てレオナは目を輝かせる。
「わあ・・・・ありがとう!」
「ふふっ・・・お嬢様、この花がお好きですものね?」
女性がそう尋ねれば、少女は小さく、こくんと頷く。
小さくて、可愛らしい花を咲かせるその花が、レオナは好きだった。





それから・・・そう言ってポケットから取り出したのは一通の手紙。
どうぞ、と手渡せばレオナはきょとんとした表情でそれを受け取った。
しかしすぐに封筒に書かれている見慣れた筆跡を見ると顔を輝かせる。
彼女が待ちわびていた者からの手紙・・・。




「お父様から!?」
「ええ・・・旦那様、今日の夕方お帰りになられるそうですよ?」
「ほんとに!?」
「ほんとです」



その言葉にレオナは顔を輝かせて慌てて部屋から出て行った。
バタンと音を立ててドアは閉まり、パタパタと廊下を駆けていく音が聞こえる。
その様子を見ていた女性は、クスクスと笑い彼女の眠っていたベッドのシーツを整え始める。
窓の方に視線を移せば、とても気持ちのいい風を感じる。
「いい天気・・・・」
そう呟いて、彼女は目を細めた。











「アルダ兄様っ!」
「うわっ!」
突然後ろから抱きついてきた妹に、青年は持っていたお茶をこぼしそうになる。
慌ててカップをテーブルに置き、青年は困った妹に声を上げた。
「レオナ!急に抱きつかないでくれ!お茶がこぼれるだろう?」
兄のそんな言葉はお構いなしにレオナは続ける。
栗色の髪をぴょんぴょん弾ませると、やや上ずった声で言った。





「お父様が!お父様が今日帰ってくるって・・・!! 手紙がきたの!」
嬉しそうに手紙を見せる妹に青年、アルダも微笑む。
「ああ・・・そう言えば早めに戻るっていっていたな・・・・レオナはきっと楽しみにしていると思ったから
手紙を書いたんだろう」
嬉しそうに手紙を書く父親の姿が容易に想像できて、そして目の前の妹の喜び様がおかしくて、くすりと笑みを漏らす。
よかったな、そういって頭にポンと手を置くと、レオナは子供扱いしないで!と膨れて、兄の手を払った。





「子供じゃないのか?」
「私、もう10歳よ!」
あと半年で11歳よ!と更に膨れる妹を見て「それは悪かったね、レディ?」と苦笑して言うと頭から手を離した。
「父さんが仕事でこんなに早く帰ってくるなんて・・・珍しいな・・・」
いつもならば、仕事で外に出ると3ヶ月はいないのだ。
それが今回は1ヶ月。
そんなに早く仕事が終わったのだろうか・・・・?
しかし、今回の会議は大きなものだと言っていたから、早めに帰ってくるはずもないのだが・・・
「きっと、私の誕生日だから早めに帰ってきてくれたのね!」
無邪気に喜ぶ妹に苦笑しながら、「レオナの誕生日はまだ半年も先だろう?」と返す。
何か胸騒ぎを感じたが、アルダは気のせいだと息を吐いた。





「そうだレオナ、私は今日、町の方まで下りてみるがお前もいくかい?」
本を買いに行こうと思ってね、と微笑む。
この屋敷は丘の上にあり、周囲に店はない。
何か入用な物があれば下の町まで下りなければいけない。
普段は使用人の人々が買ってきてくれるが、アルダは本だけは自分で買いに行っていた。
本は自分で選んだ物が一番いい。
たくさんの本に囲まれるのも好きだし、その中から自分の好きな物を選び抜くのも、とても楽しい。
しかし、その言葉を聞いてレオナの表情は曇る。
彼女の表情は、先程の嬉しそうなものから一変した。
歓喜から・・・・恐怖へ。
そして、拒絶のものへと。






「いかないわ・・・」
「・・・・・どうして?」
答えは分かっていたけど、敢えて聞いてみる。
彼女の表情から、滲み出る感情。
知らないと言ったらそれは嘘だ。
幼い表情に現れるのは、恐怖、悲しみ、疑心、そして嫌悪。
・・・・・暗く、渦巻く・・・・負の感情。






「だって・・・・・下には人がたくさんいるもの・・・・怖いから・・・・」
青白い顔でそう呟く少女に、アルダはゆっくりと論す。
自分が、町へと誘うたびに返ってくる答えは同じ。
分かっている・・・けれど・・・このままではいけない・・・そう思う。
外が怖いと頑なに答える妹。
だけど・・このままではいけないのだ。
一生を屋敷の中で過ごす?
無理な話だ。
ずっと、この暖かさに囲まれた籠の中で暮らす?
・・・・無理だろう?レオナ・・・。





知ってほしいんだ。
暖かさは自分の住む世界にだけ、あるのではないということを・・・。
外の世界にも、ここと同じくらい暖かな場所があるのだと知ってほしい。
だから・・・外に出ないと・・・
怖がらずに・・・・・外の世界に触れないと・・・





「レオナ、そんな人を化け物みたいに言ってはいけないよ・・・私達だって人なんだから」
そう優しく言うとレオナは激しく首を振る。
同時に栗色の髪が激しく揺れた。
「違う! 違うの、アルダ兄様・・・・!! あの人達が化け物なんかじゃないわ! あの人達が私達のこと、化け物って言うの!」
「レオナ・・・」
「前聞いたことがあるもの!お父様と町に出かけたときに、あの人達、お父様に向かって”化け物”って言ったの・・・!
怖い目・・・!冷たい目だったわ!私達の事を、あの目で見るのよ・・・!!
他の人と話しているときは、とても優しく笑うのに・・・私達と目が合った途端、とても怖い目で睨み付けるのよ・・・・!
兄様にも話したでしょう?」
「うん・・・・聞いた・・・」
レオナの言葉に、アルダは頷く。






超能力者を一般の一部の人々が何と言っているのか知っている。
超能力者の存在は、まだまだ明るみになってはいないものの、やはり自分の住んでいる所に異質な存在がいると
その噂は瞬く間に広まるものだ。
父は、町の人々の大半から信頼は得ているもののやはり、一部での風当たりは強い。
レオナはその人々の言葉で、外に出ることを怖がるようになったのだ。
6歳ほどだっただろうか・・・その時に聞いた、父親への言葉がまだ、頭に残っている。
彼らの嫌悪の視線、自分達を異質なものとして見る視線を、彼女は鮮明に覚えている・・・。
外だけでなく、屋敷の者以外には異常な警戒心を示すようになった。
屋敷の中は安全、しかし一歩外に出るとそこには自分達を傷つけるものしかいない・・・・
彼女は、そう思うようになったのだ。






「レオナ・・・・私がよく行く本屋の主人は私にとても親切だ。新しい書物が出るとすぐに手紙をくれたりね?
いろいろな人がいるんだ・・・・私達の事を悪く思う人もいれば優しくしてくれる人もいる。それは当たり前のことだよ?」
「・・・・・・」
「確かに、私達の事を嫌悪の目で見る者はいる・・・・それは、私も知っているよ・・・・でも、同時に、私達に暖かく接してくれる人達の
事も知っている・・・」
「・・・・・・」
「もう少し大きくなれば、きっと分かる・・・・」
黙ったままのレオナの頭を優しく撫でるとアルダは優しい声で言った。







アルダが出て行った後、レオナはソファに横になり小さく息をついた。
分かっている・・・・人皆が悪い人なのではない・・・・・
実際、手紙を届けてくれるお爺さんはとても優しい表情で笑うし、母の友人という夫人もとてもいい人だ。
いや・・・いい人・・・なのだと思う・・・
しかし、それは不確かな感覚だ。
いい人なのだと思いたい。
だけど、自分が出て、また・・・あの冷たい視線を向けられたら?
母の友人というのであって、自分の友人というのではない。
もし、母親以外の超能力者が前に出て、またあの視線を向けられたら・・・?




嫌だ・・・怖い・・・・
もう、あの様な・・・・世界から拒絶される様な思いはしたくない・・・・
自分の世界はこの屋敷の中だ。
暖かな光が差し込む、この中だ。
たとえ、外の世界が崩壊しても・・・自分の世界だけは崩壊しない。
きっと、ずっと、このままなのだ。
永遠に、この暖かさは続くのだ。




信じろ?何を・・・?
あの視線を信じろと?
自分を、世界から追い出そうとする者たちを・・・?
心のどこかで・・・信じてもいいのでは?と誰かが囁く。




だけど・・・・
信じきることが出来ない。
怖い
怖い
怖い・・・・
『いつ酷い言葉を言われてもいいように覚悟しとけ』
頭のどこかで誰かが警告を発している。




どちらの言葉にも、私は耳を貸さない。
どちらにも・・・従わない・・・・




私は・・・・・ここから出ない・・・・
外には出ない・・・・
















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