目の前に広がるのは、沢山の研究所らしきレンガ造りの建物。
さまざまな書類を抱えた人々が行き来している。
そして街の奥に見えるのは巨大な遺跡。
そう、ここは考古学者や遺跡が好きな者にとっては夢の町。
アルデストだ。



古き夢




「やった・・・!!着いた!」
思わずリョウは声を上げる。
やや大きな声だったためか、書物を抱えて歩いている男性が、ぎょっとした表情でこちらを見た。
思わずリョウは頬を染める。
それを見て、ルカは笑いを堪える為に横を向いた。




「やー・・・とうとう着いたねぇ・・・・長かったなぁ」
サクラの言葉に皆頷く。
長かった、本当に。
ここに着くまでにさまざまな出来事があったけど、その辛さが吹き飛ぶ位に、ここに着いたことが嬉しい。
ここに手がかりがあるかもしれないのだ・・・。
ZEROを止める為の手がかりが、また一つ集まる。
でも・・・・
「・・・・リョウ、にやけすぎ」
レオナの一言にリョウは、ぎくりと肩を揺らした。
そう、ここは・・・・・
「仕方ないよ、レオナ。ここはリョウにとって、まさに夢の町だからね」
クロードの言葉にレオナはため息をつき、ルカはくすくすと笑う。
サクラは目を細めた。
そう、ここは考古学が好きな自分と、そして、父にとって、まさに憧れの町なのだ。




「ずっと・・・来たかったんだ。この町に・・・・」
この町の事を話してくれた時の、父の表情が目に浮かぶ。

『一度、リョウをアルデストに連れて行きたいよ。きっと喜ぶ』

うん・・・そうだね、父さん・・・・・



一緒に来ることは出来なかった。
だけど、僕は今、確かにこの町にいるよ・・・・
目的は、遺跡の発掘じゃないけどね。
だけど、父さんの言った通りだった。
一目見て、気に入ったんだ・・・・
この町が・・・・。




「・・・・トリップしてるみたいで悪いけど・・・・」
「え?」
「・・・・・はぐれるわよ?」
レオナの言葉で我に返ると、ルカとサクラはもう、かなり先を歩いていた。
隣でレオナが小さく息をつく。
クロードが彼女の肩で、くすくすと笑った。
「はぐれないようにね?リョウ」
「う、うん・・・!!」








宿屋に着いたが、客はほとんどいなかった。
静かな店内に一行は戸惑いを隠せない。
「ここ・・・・つぶれてないよね?」
失礼とも言えるルカの発言だが、他の4人もそう思った。
もしここが運営していないのなら、他の宿屋を探さなければいけない。
「いらっしゃい」
突然声がして慌てて振り向くと、そこには初老の男性の姿。
眠っていたらしく、頭をぼりぼり掻きながら大きなあくびをする。




「珍しいな・・・観光客か?」
「えっと・・旅をしてて・・・・」
リョウの言葉に、そうかと頷き、部屋の鍵を2つ渡す。
「坊主と兄ちゃんはこっち。そっちのお嬢さん達はこっちね」
レオナとリョウに鍵を渡しながら男性は言う。
「・・・・・その鳥は・・・お嬢ちゃんのかい?」
「ええ」
「逃がさないようにな」



部屋の前に着いた時、レオナの肩からクロードが飛び立った。
そのままサクラの肩に止まる。
「・・・・クロード?」
きょとんとするレオナにサクラが笑う。
「一応、男の子だからね」
「・・・・・・?」
「男女別の部屋に別れただろう? やっぱり女の子のいる所で寝るのは恥ずかしいんじゃないかな?」
「・・・・・2人で暮らしてきた時はずっと一緒に寝てきたわ」
「それは部屋が1つしかなかったから・・・!!!」
誤解を招くような表現を!と真っ青になりながらクロードは声を上げる。
リョウは呆然として、サクラは笑いを堪えるので必死だった。




男部屋に入ると、サクラはクロードに悪戯っぽい笑みを見せた。
「クロード」
「え?」
「2人暮らしの時は一緒に眠っていたのかい?」
「だから、それは部屋が1つしかなくて・・・!!」
「でも君は鳥の姿だ」
「え」
「鳥の姿なら、どこでも眠れるんじゃないのかい?わざわざ一緒に眠らなくても」
「!!!」
「いやぁ、ラブラブだなぁ2人は〜」
サクラの発言にリョウは顔をうっすら赤くしクロードを見た。
当のクロードは顔を赤くたり青くしたりして必死に羽を動かしていた。
「別に彼女とはやましいことは何もない!」
「僕、何もそんなこと言ってないけど?」
「・・・・!!!!」
「いやぁ、若いっていいね〜」
けらけらと笑うサクラにクロードは必死に訴えた。




「確かにレオナはベッドで寝てるけど、僕はいつもソファーで寝てた・・!!そんな風に言うのは・・・」
これは本当だ。
確かに夜は人間の姿に戻れるが、彼はこの7年間、あまりその姿に戻っていなかった。
それは、自分を見つめる彼女の表情が悲しいものに変わるから・・・・
だからあまり・・・・戻れない・・・・
旅をし始めて、危険に対応できるように夜はなるべく元の姿に戻っている。
危険に対応できるようにという名目で・・・・。
そんな理由をつけているけど、やはり元の姿に戻って彼女と話せるのはやっぱり嬉しい。




クロードの言葉にサクラはくすくす笑うと「冗談だよ」と言って、クロードの羽を撫でた。
おとなしくなったクロードを見てリョウも笑みを漏らす。
本当に、クロードはレオナのことが大好きなんだな・・・・





「クロード」
「なんだい?」
「レオナとは、恋人なの?」
リョウの言葉に、クロードは目を見開いた。
彼はベッドの上に羽を休めると、暫く沈黙する。
サクラとリョウは彼のただならぬ雰囲気に耐え切れず、黙って椅子に腰掛けた。
沈黙が・・・・痛い・・・・
「クロード、言いたくないのなら言わなくてもいいよ?」
サクラが優しく声をかけると、クロードは小さく首を振った。




「レオナは・・・・僕の大切な人だ・・・・」
ぽつりと言った言葉に、リョウは頷く。
「うん・・・・僕も、そう感じた」
「ただ、君達からは、恋人のような甘い雰囲気は感じられないよね?」
サクラの言葉にクロードは頷く。
そう、彼女と自分にはそのような甘い雰囲気は似合わない。
そんな雰囲気に憧れたことがないと言ったら嘘になるが・・・・




「レオナと僕は・・・・婚約者だよ」
「・・・・婚約者?」
「うん」
寂しげに微笑むクロードにリョウとサクラは呆然と彼を見つめた。
「小さい頃から彼女との婚約は決まっていた・・・」
実際会うには少し時間がかかったけどね。
「彼女と初めて会ったのは、7年前・・・・・彼女の誕生パーティでだよ」
7年前・・・・その言葉に、リョウは目を見開く。
「クロード・・・クロードが呪いにかかったのって確か・・・・」
「7年前だよ」
静かにクロードは言う。
サクラもその言葉に、眉を寄せた。
今の言葉を考えると、クロードの呪いには・・・・・
「レオナも・・・その呪いに関係しているんだよね・・・?」
彼が呪いにかかったのは自分の所為だと責める、栗色の髪の少女。
彼女の悲しげな表情が脳裏に蘇る。





「僕が勝手に話していいものじゃないんだ、リョウ」
「クロード・・・・」
ああ・・・この2人は、同じだ。
お互いを想い、お互いに傷つく・・・
「でも・・・近いよ・・・・」
「え?」
「もうすぐ、話す。約束しよう・・・・」
本当は、もう時なのかもしれないけど、自分1人で話せるものではないから・・・・
彼女と2人で、君達に話すよ。





そう、それはもう・・・・逃げることは出来ないんだ。
この古き夢をもつ町に、着いてしまったから・・・・・











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この章の転機ともいえる話です。






2006/07/14