君は言ったね、力を持つ上で大切なことがあると・・・・
僕にはそれが欠けていたと・・・。
そして、君はそれを僕に教えてくれた。
それで、僕はやっと分かったんだ。
・・・・遅すぎたのかな。



前夜   1





「今日で最後の野宿だよ。明日中にはアルデストに着く」
サクラの言葉に皆、頷く。
アルデスト付近の草原・・・彼らはここで最後の野宿をする。
このペースで行けば、明日の昼過ぎにはアルデストに到着するであろう。
「明日は早起きだね。今日は早めに休もう」
彼の言葉にリョウたちは、そうだねと返事をする。
その時、ルカが声を上げた。
「薪がなくなりそう・・・」
野宿の為に少しだが、集めていた薪がなくなりそうなのだ。
野宿の際、常に火はきらしてはならない。
明かりがないと、周囲の様子も分からなくなるし、何より危険に対して反応が遅れる。
その為、一行は野宿の為に常にやや少量ではあるが薪の在庫を持っていっている。
この前、サクラが薪を補充したので、まだ大丈夫かと思っていたのだが・・・・。




「私、取りに行ってくる」
そう言ってルカが立ち上がる。
「今日の番は私だし。皆は休んでて」
「ルカ、一人じゃ危ないよ・・・」
リョウが思わず声を上げる。
こんなに暗いのだ。
月明かりがあるとはいえ、このような時間に一人で暗闇を歩くのは危険だ。
「そうだよ、ルカちゃん。僕が行こうか?」
サクラの言葉に、ルカは一瞬きょとんとした表情を見せたがすぐに笑顔になった。
皆疲れているのだ・・早く休んだほうがいい。
「大丈夫です。そんなに遠くには行きませんから」
一度言い出したらなかなか折れない・・・・そこがルカの長所でもあり、短所でもある。
レオナは何も言わず、ルカを見つめている。
人間の姿になったクロードも、心配そうな表情でルカを見ていた。




「じゃあ、僕も行くよ」
リョウの言葉にルカは目を見開いた。
「でも・・・」
「薪を拾うのを手伝うよ。その方が早く集まるしね」
危ないから・・・と言っても彼女はきっと大丈夫だの一点張りだ。
だからリョウは薪を一緒に拾えば早いと言ったのだ。
これには、ルカも渋々ながら応じた。
「・・・・皆疲れてるから休んだ方がいいと思うんだけど・・・・」
「疲れてるのは君も一緒だろ?ルカ」
心配そうに呟く彼女にリョウは言う。
皆が疲れているのにルカが疲れていないはずがない。
まぁ・・・そうだけど・・・と苦笑いをする彼女を軽く睨んでリョウは言った。
「さぁ・・・早く薪を見つけに行こう。そして早く戻ってきて休もう」
「そうね、じゃあ行ってきます・・・」
そう言ってルカとリョウは他の3人の傍を離れた。
サクラは何か声をかけようとしたのだが、タイミングを逃したようで、やや開いていた口を噤んだ。




「・・・やっぱり皆で行った方がよかったんじゃないかな・・」
クロードの言葉にサクラも頷く。
皆で動いて、早々に戻ってきた方がよかったのでは・・・?
2人を信用していないわけではないが、あの2人ではどうも危なっかしい感じがしてサクラは息を吐く。
それにリョウは・・・・
「大丈夫よ」
沈黙をレオナが破った。
「もう少し・・・あの2人を信用してやれば?」
レオナの言葉にサクラは眉をひそめる。
これではまるで自分があの2人をはなから信用していないみたいではないか。
サクラは口元を上げて言い放った。
「僕は心配なだけだよ。それよりもレオナちゃん、君は2人が心配じゃないの?自分が付いていくとも言わなかったし仲間の事なんて
どうでもいいのかな?だとしたら、随分と薄情なんだね」
挑発するような口調。
初めて出会った時からこの2人の間の空気はピリピリしたものを感じる。
天敵のような冷たい空気・・・。
レオナはそんな彼の口調を無視したように言った。




「ルカは強いわ。」
「でも彼女は女の子だ・・。それに能力も使えない。」
「男女差別ね」
「そんなつもりじゃないよ」
「でもそう聞こえるわよ」
レオナの淡々とした物言いにサクラは笑みを消した。
冷たい視線が彼女を射る。




「まぁ、この際それでもいい・・・だけど、彼女にリョウ君を付けたのは僕は少し心配だ。付いていくなら僕か君か
クロード君でよかったはず・・・。僕はそれを言いたかったんだけどタイミングを逃してね・・・・君達は何も思わなかったのかい?」
サクラの言葉は冷たい。
普段の朗らかで軽い口調が嘘のようだ。
これが・・・彼の本性か?
レオナはそう思って口を開いた。
「何もって・・・何を?」
嘲るような口調。
「リョウ君はまだ・・・・・」
「彼は大丈夫よ」
「根拠はなんだい?」
「そう思うからよ」
根拠などない・・・そのように見えたからそう言ったまでだ。
レオナはサクラの方を見て淡々と言葉を紡ぐ。



「確かにリョウ君は立ち直ったように見える・・・だけど、あれから彼はまだ1回も戦闘を経験していないんだよ」
「そうね」
「だったら・・・!」
「だけど、」
やや感情的になったサクラの言葉をレオナは遮る。
「彼は立ち上がる。」
「っ!」
「もし戦闘になったら、彼は武器を取らずにはいられない状況になる。そしたらもう、今までの様に自分を責めてはいられない。
だって、そこには自分とルカの2人しかいないのだから・・・・。立ち向かわなければ・・・死ぬ・・・・。
それに・・・彼は武器を持つ上で必要な事を知った。・・・だからもう、間違わないわ・・・・」
魔物の強さによっては、苦戦を強いられるだろう・・・。
ろくに正当な剣術を習っていない彼だ。傷つくかもしれない・・・・
しかし、レオナには彼ならば大丈夫だと・・・何故かそう思えるのだ。
根拠はない。
しいて言うのなら・・・感覚。
まったくもって、都合のいい話だが、そうなのだからどうしようもない。




「荒療治だね。戦わなければいけない状況に追い込んだ・・・ということかい?」
「魔物とは出会わないほうが一番いいわ」
誰も出会ってほしいだなんて言っていない。
何事もないのならばそれが一番いいのだろう・・・・。
しかし、もし出会ったのならば・・・その時が彼が再び立ち上がる時なのだろう。
リョウが自分が付いていくと言い出したのも、その前兆なのだろう。




「君はどう思う?クロード君」
「クロードでいいですよ。・・・・僕も、リョウは大丈夫だと思います」
クロードは微笑んで言う。
「リョウは一度自分の力を過信し、身を滅ぼした。だけど、今の彼ならば大丈夫だと・・・そう思える」
瞳が変わった、そう思う。
出会った当初よりも、もっと強い光を持っているような・・・・そんな印象を、最近のリョウには感じる。




それを聞くと、サクラはふうっと息をつき「分かったよ」と言った。
そこまで言うのならば、待とうではないか・・・2人の帰りを。
魔物に出会うとも限らないのだ。
何事もなく戻ってきてくれればいいのだ。
・・・・おかしいな。
どうして僕はこんなに他人の事を気にしているのだろう・・・・
他人のことなんてどうでもいいと・・・そうずっと思っていたのに。





「レオナ、大丈夫だよ」
「・・・何が?」
不意に小さく声を掛けてきたクロードに眉をひそめる。
サクラも不思議そうにクロードを見つめた。
「リョウとルカ」
「・・・・だから何を・・・・」
彼の言葉の意味が分からなくて、レオナは繰り返す。
「・・・手、震えてる・・・・」
クロードの言葉にサクラはレオナに視線を移す。
彼女の手は、僅かだが小刻みに震えていた。
無意識だろう・・・・
リョウの事を大丈夫だとは言っても、ルカが強いと言っても・・・やはり心配なのだろうか。
いや・・・そうではない。
彼女は2人を信用している。
それは先ほどの口調で明らかだ。
彼女は・・・・・
「リョウと僕達は違う」
クロードは穏やかに、しかしはっきりと言った。
「彼はもう、同じ過ちを繰り返しはしないよ。僕達のようには、ならないよ・・・・」
リョウと自分を重ねているのだろうか・・・。
そして、リョウを通して無意識に自分の過去を思い出しているのだろうか・・・。
サクラにはクロードの言葉の意味がよく分からなかった。
しかし・・・彼女の様子とクロードの言葉で、彼女も、レオナもかつては自身の力を過信し、身を滅ぼした者なのではないかと・・・
そう思った。








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次はリョウとルカサイド。



2006/05/28