真実を知りたいと願えば願うほど、それは遠くに離れてしまう。
もがけばもがくほど、足元を取られる・・・


どうすれば、あるべき場所に辿り着けるのか、


誰にも分からない・・・・



月の定め




「ん〜・・・長かったねぇ。もうすぐ到着するよ〜!」
歩きながら背伸びをすると、サクラは言った。
「後、3日位ですか?」
サクラの地図を見ながらのルカの問いにサクラは頷く。
長い道のりだったが、無事に目的地であるアルデストに到着できそうだ。
日は高く、もうすぐ昼どき。
天候にも恵まれ、一行は順調に歩を進めていた。



「レオナ? どうしたの?」
リョウは傍を歩くレオナに声をかけた。
彼女はぼぉっとした様子で、歩いている。
目を見ると、やや赤くて腫れている。
・・・・泣いたのだろうか・・・・
彼女は、リョウたちがクロードから呪いについて話をしてもらった時あたりから元気がない。
彼女の肩に乗っている金色の鳥のクロードも、彼女に心配そうな視線を常に向けていた。



「レオナ・・・」
「何?」
リョウの言葉を遮るように、レオナは言った。
その冷たい響きにリョウは、思わず言葉を飲み込む。
「いや・・その、元気がないようだから・・・どうしたの?」
「別に、何でもないわ」
リョウの言葉にレオナは淡々と答えた。
その言葉が微かに震えているような感じがして、リョウは続ける。
大切な仲間だ・・・ほおっておけない・・・。
「何でもなくないよ! 目も赤いし、何かあったの?」
「なんでもないったら・・・」
「嘘だよ!何があった・・・・」
「何でもないったら!!!」



突然のレオナの大声にリョウは思わず言葉を失う。
普段、感情の起伏が少ない彼女がこんなに感情をあらわにするなんて・・・。
先を歩いていたサクラとルカも驚いた様子で立ち止まる。
肩に乗っていたクロードが、レオナ!と咎める声を上げた。
彼女は肩に乗っている鳥に視線を向けると、顔を歪める。



「ごめんなさい、リョウ。でも何でもないから。・・・あったとしても貴方には関係の無いことだから」
遠まわしの拒絶の言葉。
関係のないことだから、自分の事は気にかけるな・・・・レオナの言葉にリョウは、俯いて歩き出す。
自分は、そんなに頼りないだろうか・・・。
何か困ったことがあったなら相談相手に位はなるのに・・。
自分ひとりで抱え込むのは、レオナの悪い癖だ。
僕でなかったらルカやサクラさんに相談してもいいだろうに。
すると、レオナの肩からクロードが飛び立ち、リョウの肩に止まった。



「クロード・・・?」
「すまない、リョウ・・・気分を悪くしたかい・・?」
クロードのどこか悲しそうな声音にリョウは首を横に振る。
「いいんだよ、僕が踏み込んで聞きすぎたんだ・・・。誰にだってイライラしている時は話されたくないだろ?」
だから、平気さというようにリョウは笑顔を作る。
それを、聞くとクロードはほっとした表情を作り、その後辛そうに俯いた。
「・・・レオナがあんな風になっているのは・・・僕のせいなんだ」
「クロード?」
「・・・」
黙ってしまったクロードをリョウは優しく撫でた。
「呪いのこと?」
心当たりといったらそれだけだ・・・。
リョウは小さな声でクロードに尋ねた。
レオナになるべく聞こえないため・・・。



「・・・・ああ」
「そっか・・・」
予想通りの返事に小さく息をつく。
「レオナは・・・自分の所為で僕が呪いにかかったと思ってるんだ・・・それは・・違うのに・・」
頑なに自分が悪いと思っている彼女。
どんなに違うと言っても聞いてくれない・・・。
そうやって自分を追い詰めていって、自分を責めて、いつかポキンと折れてしまうんじゃないかと何度思っただろう。
それに、彼女1人の責任であるはずがない・・・
むしろこれは・・・・



「・・・僕のせいなのに・・・」
クロードのその呟きはリョウにはっきり聞こえた。
「それは、違うよクロード・・・」
思わず、リョウは言った。
クロードは不思議そうにリョウを見つめた。
リョウははっとして、思わず口元を押さえた。
クロードは、自分を責めて、レオナは自分を責めている。
自分の所為だ・・・と。
「・・・僕、2人に何があったかも知らないし、2人がどれ位親しいかとか・・・それも知らない・・・
どこに住んでいたとか、どんなものが好きだとか・・・・それすら知らない・・・。僕が口を出すのは
出すぎたことだと思うし、口を出す問題じゃないのも、分かってる。
だけど・・・」
そこでリョウは言葉を切る。
小さく息を吸って、また続ける。



「自分がってずっと自分を責めるのは、よくないことだと思うんだ。このままじゃ2人とも平行線だよ。
自分が悪いって言ったら、きっと相手は辛そうな顔をするだろうし、それを見てまた自分が悪いって思って・・・
その繰り返しだよ。だから、その、・・・・・っ、ごめん、上手く言えない・・。ただ、僕は自分を責めすぎるのはよくない
って思って・・・だから・・・・・」



ああ・・これじゃ支離滅裂だ。
自分の言いたいことも伝えられないなんて・・・。
だけど、何て言ったらいいのか、言葉が出ない・・・。



「つ、つまり、僕も手伝うから!」
「え・・・?」
「僕も、クロードの呪いを解く方法探すの手伝うから!」
握りこぶしを作って声を上げるリョウに、クロードは目を見開く。
彼は今、何と言っただろう・・・・
自分の呪いを解く方法を見つけると・・・・そう言ったのだろうか・・・
全く関係ないのに。
自分の問題ではないのに・・・・
「どうして・・・」
呆気に取られたクロードの言葉を遮り、リョウは笑う。
「だって、僕達仲間じゃないか! 仲間が困ってたら手伝うのは当たり前だよ!」



暫く呆気に取られていたクロードは、我に返ると目を細めて微笑む。
仲間だから・・・
こんなに簡単に手を差し伸べることが出来るのか、彼は・・・
拒絶することも出来る。
君には関係ないことだからいいよ・・と。
だけど、何故かそれが出来ない。
何の構えもなしに僕らの傍に入ってくる彼は、
それをすることを許さない。
どうして・・・?  何故・・・?
これはリョウ・コルトットという少年が持つ、天性の力なのだろうか・・・
ある人が大丈夫というと、本当に大丈夫と思えてしまうように・・・。






「・・・リョウは不思議・・・」
「ルカちゃん?」
後ろで話しているリョウにそっと視線を向けるとルカはぽつりと言った。
「リョウの言葉は・・・すっと胸に入ってくるの。何も飾らない、ごく普通の言葉だけど、
どうしてだか、彼が言うとああ・・そうだねって気持ちになるの」
それは、彼の誠実な人柄からなのか、それとも幼い少年のように純粋な心からか・・・



レノールでのリョウの言葉。
それは今でもルカの心の中にしっかり刻み込まれている。
自分に踏み出すきっかけをくれた彼の言葉。
まさか、彼は自分の言葉のおかげでルカがここにいるなんて思わないだろう。
だけど、それ位、ルカには心動かされた言葉だった・・・。



「そうだね・・・リョウ君は・・・不思議だね・・・・」
サクラもぽつりと呟く。
ルカは「ね?」と言って2人で微笑んだ。








「クロード・・・?」
「いや、つい最近までしょぼくれていたリョウがこんな事を言うなんてと思ってね」
「あ、た、確かに僕にこんなこと言える資格なんてないと思うけど・・・・だけど・・」
「嘘だよ」
クロードの言葉にリョウはえ・・と呟く。
「ありがとう・・・嬉しかった」
目を細めて笑うクロードにリョウも微笑んだ。



クロードは後ろを歩くレオナに視線を移した。
先ほどの会話は、彼女に聞こえていたのだろう・・・。
目を大きく見開いている。
ふと彼女と視線が合った。
レオナが何か言おうとする前に、クロードは首を振る。
そして柔らかく微笑んだ。


全て終わったら・・・
呪いを解く方法、見つけよう。
時間はかかるかもしれないけど、きっと見つかる。
そして、もう一度、日の光の下で共に手を繋ごう・・・・



レオナは彼の笑顔を暫く見つめていた。
何か言いたげな表情で。
しかし、一度目を瞑ると、再び開き、
そして、小さく微笑んだ。





「クロード」
「なんだい?」
リョウの声にクロードは再び彼に視線を戻す。
「クロードは、5歳の時に呪いにかかったんだよね・・・一体どういった・・・」
「ああ・・あれは嘘だよ」
さらりと言ったクロードにリョウは目を見開く。
嘘って・・・そんな簡単に・・・・
「本当は、僕が12歳の時。・・・・今から7年前だ・・・」



忘れもしない、7年前のあの出来事。
レオナと自分が出会った忘れもしないあの日・・・・。
永遠に守ると決めた人ができた日。



いつか、リョウに話そう。
でも今はまだ、話せない・・・。
他の誰かにこの事を話すのに・・・まだ勇気が出ないんだ。
だけど、きっと・・・
きっと話そう。



ね、レオナ・・・・。









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傷はまだ癒えないけど、それを押さえて立ち上がる。




2006/05/13