Eden
始まりの予感 1
「・・・・駄目だ・・・出ない・・・」
皆が寝静まっているであろう時間、一つの部屋にはまだ明かりが差していた。
ベッドの上に寝転がっていた人物は、読んでいた書物を放り出すと呟く。
いかにも使い古したその書物はバサッと音をたてて床に落ちた。
それを横目で見ると、その人物、桃色の髪をした少女は息を吐いてベッドから起き上がった。
先ほど自分が放り投げた書物を拾い上げると、軽く表紙を叩く。
ベッドにもう一度寝転がると、彼女は先ほどよりも深く息を吐いた。
「・・・・っていうか、確信もないけどさぁ・・・・」
独り言のように呟くと再び書物をめくり始める。
彼女の手にしている書物には、びっしりと小さい文字が書いてある。
恐らくスバルあたりが見ると1、2秒で放り出すだろう。
それを苦とも思わないような表情で次々にページをめくっていくと、一つのページに彼女は目を留める。
いや、正確には・・・・
「何・・・?この感じ・・・・」
ふと、感じた違和感。
何かおかしな感覚を感じ、少女、ルナは本から視線を移した。
気のせい・・ではない。
普通の人なら、ああ気のせいだろうで済ませるかもしれないが、あいにくルナはそうは思わない。
なぜなら、彼女は普通ではないから。
自分の胸を駆け回る不快感。
鼓動は早まり、嫌な汗を感じる。
彼女は思わず立ち上がった。
何なのかは、分からない・・・・しかし、自分が感じているのならきっと彼も感じているだろう・・。
この言いようのない、不安と、焦燥感。
ルナは窓辺に向かうと、ぼんやりと光る月を見つめた。
「何だ・・・・・?」
同時刻、
そう呟きが漏れ、茶色の髪の少年がベッドから起き上がった。
リアは枕元のランプを点け、辺りを見回す。
しかし、特に変わった事はない。
一体何なのだろう・・・・
目を覚ます程のこの焦燥感。
目を覚ました今でも、治まることはない。
気のせい・・・?
いや、その可能性は低い。
自分でも感じるこの感覚・・・・・・きっとルナはもう感じているのだろう。
彼女は、優秀だから・・・。
嫌な予感がする。
何か、何かを失ってしまうような、手離してしまうような・・・・
いや、奪われるような、そんな感覚。
「・・・・スピカ・・・・?」
リアは小さく幼馴染の少女の名を呟く。
何故かは分からない。
しかし、ふと口から出た名前・・・・。
いや、まさかそんなはずはない・・・。
彼女がどこかに行ってしまうなんて、そんな事あるはずがない。
しかし、胸に残るこの言いようのない感覚はリアを更に不安にした。
自分に何かを予感する能力はないはずだ。
でも・・・
リアはベッドから下りると、細い剣を持って部屋を出た。
どうか、杞憂でありますようにと祈りながら・・・・。
「スバル!」
「リア!?」
廊下に見覚えのある少年を見つけ、思わずリアは声を上げた。
騎士団隊長、スバル・エリクトル。
スバルはリアの姿を見ると、驚いたように目を見開く。
「どうしたんだよ、お前・・・・」
「君こそどうして・・・」
眠っているはずのスバルが目の前にいて、リアは戸惑う。
「いや、ちょっとな・・・・目が覚めたから・・・」
「僕もだ」
リアの言葉に、スバルは眉を顰めた。
普段リアは寝付きが早く、めったに夜中に起きたりはしないから・・・・
そんなリアが目を覚ますという事は、
「・・・何か危険なものが?」
「いや、分からない・・・急に目が覚めたら体中、妙な感覚が・・・・」
それを聞くとスバルは、俺もだ・・・と呟く。
スバルには何か、本能的に危険を察知するものがある。
第六感、とでも言うのだろうか・・・
それが一般の人よりもかなり優れているのだ。
彼が騎士団隊長という地位まで登りつめたのも、彼の剣の腕とこの才能のおかげだ。
そのスバルが何か察したということは・・・・
「思い過ごしであればいいんだけどな・・・・」
「うん・・・」
リアは頷く。
本当に、ただの思い過ごしであればいい・・・・
「俺はちょっと城の中を見回ろうと思うんだが・・・お前も行くか?」
「うん、一緒に行くよ」
2人は静かに、長い廊下を歩き始めた。
不安を胸に抱きながら。
どうか、どうか、思い過ごしで、気のせいでありますように・・・・
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2006/05/07