Eden


seacret  3



「日当たり良好ー! 眺めも最高ー!!」
そう言うとルナは部屋の大きな窓のカーテンを勢いよく開けた。
明るい光が部屋の中に入ってくる。
ルナの荷物の整理をしていたジャックリードは微笑んでそれを見る。



「よかったですね、ルナ様。スピカ様とお友達になれて」
「2人の時はルナでいいわ、ジャックリード。貴方にルナ様なんて言われると可笑しな気分」
「ですが、ここはレトリアではありませんよ?」
「大丈夫!確かに貴方はランネスレッド家に仕える者だけど、私にとって貴方は従者じゃないもの」
ルナの言葉にジャックリードは笑顔になった。
そう、彼は確かに長年ランネスレッド家に仕えるものだが、ルナとジャックリードの関係は1枚岩というものではない。
しかし、ルナに仕えているということも嘘ではないからフェルノーム国では一応従者という名目で傍にいる。



「誰も気がついてはいないみたいだしね。ばれるまで黙っててやるわ」
「ルナは嘘が苦手ですから、どこまで隠しとおせるか・・・」
ジャックリードは半ば冗談でその言葉を言ったが、ルナは真剣な顔で俯いた。
「そう・・・だから、何がなんでも隠し通さなきゃいけないの。特にリアは鋭いから・・・」
にこにこと笑っているあの従兄弟だが、洞察力は相当なものだ。
それに、彼は血縁関係だ。
・・・ということは、あの能力も多少なりとも影響するだろう。
今、彼にここの国に来た目的を悟られてはいけない。
全ての計画が崩れてしまう。



「あーもー・・・面倒くさいなぁ!」
ルナはベッドに身を投げると、枕を抱いてジャックリードを見た。
「ねー、ジャックリード」
「何ですか、ルナ」
「友達が出来ちゃったー」
「・・・知ってますよ。私もさっき言ったじゃないですか・・・」
「何よー、ここは良かったですねって返してくれなきゃ!」
ルナは膨れたような表情をみせるが、すぐに笑顔になった。



スピカと友達になれたことが、とても嬉しい。
ああ、彼女と一緒にどこに行こう・・・
また、あの花園にも行きたいし、お弁当を持って少し遠くも行ってみたい。
フェルノームは気候も暖かくて色々な植物や果実が出来るから、市場に行くのも楽しそう・・・
そう思いを馳せていると、ジャックリードはルナを現実に引き戻した。



「そうだ、ルナ」
「何?」
「ちゃんと、薬草学のお勉強もしてくださいね?」
「!」
「ルナは、このフェルノーム国に留学に来ているのですから」
「鬼ーーーーー!!!」
「留学」という文字をわざと強調させて、ジャックリードがにっこりと笑うとルナは枕をジャックリードに投げつけて叫んだ。



「後でおば様にも挨拶しないとなぁ・・・」
「リア様のお母様ですか?」
「うん」
「恐らくルナが来ていることは知ってらっしゃると思いますよ」
「だよね・・・」
あのおば様だもん、とルナは続ける。
ルナはベットの上に投げ出してあった自分の小さな鞄を取り出すと、中から薄い板のようなものを取り出した。
そこで、手を止めてドアの方を見る。
・・・・いつまで、そこにいるつもりなのだろう・・・・。



「ルナ?」
「お客様」
「?」
「・・・・ずっと、そこにいるでしょ?立ち聞きなんて紳士のすることじゃないわ。入れば?」
その言葉に、部屋のドアが開く。
そこには、漆黒の髪の少年が険しい表情で立っていた。



「えっと、確か・・・」
「スバル・エリクトルだ」
短くそう言うと、ルナは「ああ、そんな名前だったわね」と微笑んだ。
「スバル隊長、どうなさいました?」
にっこりとお嬢様言葉でそう言うと、スバルは眉をひそめる。
「今更、猫被らなくてもいいよ。会話は全部聞いていたしな」
「あ、そう・・。でも失礼ね、猫被ってた訳じゃないわ。私は自分の立場は自覚してるもの。場をわきまえた発言をしてる
だけよ」
「だったら、そういう話も場所をわきまえてするんだな」
スバルは険しい表情を強くした。
そして、腰に差してあった剣を抜くとルナに突きつける。
「・・・・騎士団の隊長が、こんなに手が早くていいわけ・・・?」
半ば呆れた表情のルナは肩をすくめる。



「お前は、何しにこの国へ来た・・・・、お前は何者だ?」
もしも、この国に来た目的が、自分の大切なものを傷つけることが目的なら、
容赦はしない。
それが分かったと同時に、斬る。
先ほどの彼女達の会話は、ただの留学が目的の様な感じではなかった。
危険な芽は、摘み取る・・・・
それが、自分の役目。
この国を、大切な人を護るのが自分の役目だ。



「貴方と同じよ、スバル・エリクトル」
ルナの言葉に、スバルは目を見開く。
ルナは自分に突きつけられた刃など特に気にもしないように続ける。
「貴方と同じ。真実を知ってる者。リアの事・・・知ってるんでしょ?」
「お前、何で!」
スバルは思わず剣を下ろす。
何故彼女が知っている?彼女はこの国にいない人間なのに・・・・!



スバルの動揺っぷりが可笑しくてルナは笑うと、ベッドから立ち上がりスバルに近づく。
「忘れたの?私はリアの血縁よ?」
「・・!」
その言葉で、スバルは全てを悟った。
彼女が、この国に来た理由は、自分の目的と同じ。
そうだ、彼女もリアを・・・・



「わりぃ・・・」
スバルは頭を掻きながら、バツが悪そうに言った。
ルナは笑いながらベッドに腰掛ける。
「スバルって、なんか猪みたいね」
「あ?」
「ひたすら突進。ぶつかるまで!みたいな感じ」
「うるせぇよ」



スバルは未だ笑っているルナを睨むと、ふっと笑顔になった。



なぁ、リア・・・
お前も、スピカに本当のこと、話すべきなんじゃないかって・・・最近思うんだよ。
だけど、お前は話さない。
変な所頑固だよな。
それで、苦しそうに笑ってるもんだから、スピカはお前の事、心配してる・・・。
お前を見て、あいつも悲しそうに笑ってる。



知らないって事は、お前にとってはいい事なのかもしれないけど、スピカにとっては
とても残酷な事なんじゃないかって思うんだよ・・・。
真実を知ったときのあいつの表情が簡単に想像出来て、
苦しくなるんだ・・・・




俺は、どうすればいいのか・・・・・
時々、分からなくなるんだ・・・。







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タイトルのseacretはルナの秘密とリアの秘密。
どちらもまだ、明らかになっていません。
スバルはどんな事にも一直線。




2006/04/29