Eden


Little wind  2


僕、リア・セイクレイドには2人の幼馴染がいる。
1人目はスバル・エリクトル。
王宮騎士団の隊長をしている。
剣の腕はたつし、人望もある。少し、無鉄砲な所はあるけど・・・。
でも、1歩前になかなか踏み出せない僕は、彼を羨んでいる部分も少しあるかもしれない。

そして、もう1人は・・・



書庫でリアは見知った銀髪を見かけた。
見間違えるはずがない、彼女だ。
どうやら、本棚の上の方の本が取れないらしく、ぴょこぴょこ飛び跳ねている。
しかし、本の背に少し手が触れるだけでなかなか手に取ることが出来ない。
彼女もそれにイライラしているらしく、飛び跳ねるのを止めると、どうしたものかと
腕を組んで本棚を睨みつけていた。


その姿が何だか可笑しくて、リアはこっそり笑うと少女の後ろから本を引き抜く。


「どうぞ。」
「リア!」


突然背後から声をかけられ、スピカは驚いて振り返った。
ずっと上を向いて飛び跳ねていたせいか、顔がうっすら赤く染まっている。


「ありがとう、取れなくて困ってたの。」


そう言ってスピカは苦笑する。
そして、リアの手から本を受け取った。


「取れないのなら、誰かに声をかけたらよかったのでは?」
「・・・あいにく、誰もいなかったのよ。」


リアの言葉にスピカは、ばつが悪そうに下を向いた。
恥ずかしさの為かさっきより顔が赤い。



その言葉にリアは、そうですかと微笑んでスピカの持っている本に視線を移した。
スピカが持っている本は園芸関係の本だった。
花の育て方が書いてある。


「ああ、これ?部屋で何か育ててみたいなって思ったのよ。」


自分の部屋で何か育ててみたいのとスピカは続け、本をパラパラとめくる。
一通りめくると、にっこり笑って本を持ち上げた。





そういえば、彼女は小さい頃から何か、植物を育てるのが好きだった。
幼い頃は庭師の老人にくっついて、作業を見ていたものだ。
植物が好きなのか、と聞いたら花のような笑顔で、

「大好きよ。」

そう言ったっけ。



その笑顔を見たら、もっと笑ってほしい、そう思って思わず僕はこう言った。

「ぼ、僕も!僕も植物大好きなんだ!!」

本当は、大好きって程でもなくて、綺麗だな・・・その程度のものだったんだけど
そう言ったら、嬉しそうに笑ってくれるんじゃないかって・・そう思ったから。


案の定、彼女はこう言った。

「本当?嬉しい!」


そして、僕の大好きな笑顔でまた笑ったんだ。










「リア?」


本を見つめたまま動かないリアを心配したのか、スピカはリアの顔の前で手を振った。
それに気がつき、リアは我に返った。


「どうしたの?大丈夫?」


目の前の少女の眉が怪訝そうに寄せられる。
どうやら、自分を心配してくれているらしい。


「あ、はい。ちょっとぼーっとしてしまいまして。」


リアは慌てて微笑む。
しかし、スピカはその表情を見ると不安げな表情を強くした。
まるで、今にも泣きそうな表情・・・。
何かを堪えるような・・そんな表情。




「・・・姫?」


どうして?
何故そんな表情をする?
君は・・・最近そんな表情が増えた気がする。
いや、増えた。
いつも見せてくれる笑顔の中に、寂しげな、不安げな表情が見え隠れしたのは
一体いつからだった?



「リア・・・無理しないでね。」


貴方が見せる微笑みの中に見え隠れする、辛そうな表情を、どうしたら取り除いてあげられるのかな?
私に何が出来るのかな?
もし、私が何かしたいって言ったら、貴方は何て言うのかな?
きっと、笑って、「姫の気にしすぎですよ」って言うのかな・・・。



スピカの言葉を聞くと、リアは一瞬目を瞠った。
しかし、すぐに微笑むと優しげな瞳で目の前の少女を見つめた。




「無理なんか、していません。最近寝不足なだけですよ。多分、その所為で
ぼーっとしていたんでしょう」


君がそんな表情をするのは僕の所為かい?
だったら、何も心配することなんてない。
君は、何も考えることはないんだ。
心配する理由なんて、ないんだよ。



「そっか・・・もう!ちゃんと寝ないと駄目じゃない!!」



そう言ってスピカは、わざとらしく腰に手を当ててリアを見る。
先ほどの不安げな表情は微塵も感じられない。



その態度にリアは笑って、「はい。」とだけ返事をした。
彼女の仕草がどこか、面白かった。



リアの返事に満足したのか、スピカは大きく頷いて「よろしい。」と笑った。
自分でもこの仕草はオーバーだと思ったのだ。



「そうだ!リア。リアは植物で何が一番好き?」


リアは植物が好きだと言っていたが、これまで何が一番好きなのか聞いたことがなかった。
話していて、このことが話題にならなかったのは何だか不思議だ。
リアはその質問を聞くと、一瞬きょとんとした表情を見せた。
しかし、すぐに腕を組んで考える。


「・・・好きな花・・・そうですね、薔薇が好きです。」
「薔薇?」
「はい。桃色の・・・小さな薔薇です。庭に咲いているような大きなものではなくて、小さいもの。」





スピカもその薔薇は知っている。
庭に咲いてる薔薇の半分位の大きさで、桃色の可愛い薔薇だ。
鉢で栽培出来るが、育て方がとても難しいらしい。
確か、以前、姉のミモザが栽培していて見事に枯らしてしまっていた。


確か、名前は・・・・




「「ローズプラチナ。」」



スピカのリアの声が見事に重なった。
2人は顔を見合わせると、同時に噴出す。


「そっか・・・リア、ローズプラチナが好きなんだ。」



ちょうど、何か栽培してみたいと思っていたところだ。
ローズプラチナが綺麗に咲いたら、リアは笑ってくれるだろうか。
あの頃のように、優しく、楽しそうに笑ってくれるだろうか・・・。


そう考えると、少し嬉しくてスピカは思わず微笑んだ。
少しでもいい。彼の、辛そうな表情が消えますように・・・。






本を持ってスピカが部屋に戻るとリアは小さく息を吐いた。


彼女が自分を心配してくれているのは知ってる。
でも、その所為で寂しそうな表情をするのは嫌だ・・・。


スピカ、僕は君の笑った顔が好きなんだ。
たとえ、君の笑顔を曇らせているのが僕だとしても、
君には、僕のことなんて考えずに笑ってほしいんだ。




それは、我がままなのかな・・・。



愛しい君よ・・・。











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(お互いを想うあまり、すれ違う・・・・)


2006/2/12