Eden


Little wind  3



私、スピカ・フェルノームには2人の幼馴染がいる。


1人は、スバル・エリクトル。
王宮騎士団の隊長をしていて、剣の腕に関しては右に出る者はいない。
少し、無鉄砲なところがあって乱暴者なイメージがあるけど、
本当は誰よりも仲間想いで優しい人。


そしてもう一人は、リア・セイクレイド。
スバルと同じ、王宮騎士団に所属していて、副隊長の任に就いている。
自分から前にでて皆を指揮したりはせずに、常にスバルのサポートに回っている。
常に皆のことを考えて、手を差し伸べてくれる人。
・・・・大好きな人。





2人とも、大切な、大切な人。
私が、失いたくない存在だ。










部屋の窓から、王宮騎士団の面々が練習に打ち込んでいるのが見えた。
整列して、各々剣を振るっている。
先頭で声を張りあげている黒髪の少年は、おそらくスバルだろう。


彼が何か、兵士たちに無茶な注文でもつけたのだろう。
一拍置いて、兵士たちのブーイングが聞こえる。
そのブーイングに対抗するかのように、スバルは更に声を張りあげた。


「相変わらずだなぁ・・・。」


スピカは窓枠に頬杖をついたまま苦笑した。
おおかた、新しい訓練法でも提案した・・といったところだろうか。
スバルの提案するものは、どこか危険めいたものがある。
彼曰く、「気合いでどうにかなるだろ」らしいが、そういう問題でもない。




収まらないブーイングに
「うるさい、開始!」というスバルの怒鳴り声がはっきりと聞こえた。
しかし、これだけ好き勝手やっても兵士たちが彼についてくるのは
彼の人望の他何ものでもない。
彼の真っ直ぐで、飾らない態度に皆、好感を持つのだろう。



「結局始めてるし・・・」


クスクスとスピカは笑う。
スバルの練習メニューだろう。
兵士たちはそれぞれの剣を置いて、庭の周辺を走っている。
もっとも、ただのジョギングで終わるわけがないのだが・・・。
なんせ、隊長はあのスバル・エリクトルである。




「あれ・・リアは?」




もう一人の幼馴染を探してスピカは窓から少し、身を乗り出す。
しかし、リアの姿はどこにも見当たらない。


何か仕事かな・・・・




リアは、書類の整理やデスクワーク等もよくやっている。
ここ最近は特にそちらの作業が増えた気がする。
彼の仕事の中には、一部スバルのものも混じっているのも事実だが。
スバルは、自分は細かい作業は苦手だと言ってリアに任せるのだ。
それを、見つけてはスバルを咎めてきたが、もう最近は諦めつつある。

いや・・諦めたら駄目だけど・・・。


はぁっと溜息をついて再び外に視線を移した。


しかし、どうしてもあの茶色の髪を捜してしまう。
外にいないことが分かっていても・・・だ。



「・・・・重症だな、私・・・。」



どこにいてもリアの姿を捜してしまう自分は、重症ではないのかと思う。
ただ、「恋の病なの」って柄でもないし、そんな可愛らしい感情でもないような気がする。



「あー・・・散歩行きたいな・・。スバル、明日暇かなぁ・・。」




ぶんぶんと頭を振って呟く。
この場合、スピカが言う「散歩」とは城を抜け出して町に出かけることであって、
決して中庭を「散歩」するという意味ではない。
そして、彼女の「散歩」に喜んでついていくのがスバルだ。
彼も「隊長」という立場上、滅多に町に遊びに行くことは出来ない。
もちろん、町の巡回という名目で行けば可能だが、「巡回」と「遊び」では気分が違うそうだ。




リアと3人でもいいのだが、隊長、副隊長がそろって抜けるわけにはいかないし、(何より周囲の人達にばれそうだ)
リアは「自分はいいから2人で行ってきてください」と言うのだ。
これにはスバルも不満たらたらだが、リアが仕事熱心なのは知ってるし、自分の作業も多少押し付けているのだから
あんまり強くは言えない。


「スバルの仕事が溜まってるんだけどな」と笑顔で言われればアウトである。



しかし、暫くは散歩に行くのは無理だろう。
もうすぐ式典が近いので王宮騎士団含め、城中は大忙しだ。
自分も王女なので何かしなければ・・と思うのだが
周囲の人間に何か手伝えることはないかと尋ねれば、


「姫様はドレスの試着をしていただければいいですよ。」


と答えるのだ。


同じ王女でも、第一王女である姉のミモザは国王である兄と一緒に走り回っているというのに・・・。


スピカは何だか自分が取り残されてしまったような、そんな寂しさを覚えた。




「私に出来ることは・・・何も無いのかな・・・」




自分を可愛がってくれることは知っている。
兄も、姉も、侍女も、皆、自分を大事にしてくれている・・・。
だけど、それと自分が何もしないという事は関係がない気がするのだ。



王女として生まれた以上、責任がある。
やるべき事がある。
第一も第二も、生まれた順番など関係がないのだ。


それと同時に頭に浮かんだのは彼のこと。




「貴方にも・・・私が出来ることはないのかな・・・。」





事情は知らない。
スバルは知っているみたいだが、教えてくれそうもない。
それは、彼の様子がただならぬことを証明しているようなものだ。


スバルは教えてくれない。
だから、訊かない。
無理やり訊いて、困らせたくはないから・・・。



だけど、諦めたくはないの。
大切な人だから。
大好きな人だから・・・。




余計なお世話なのかもしれない。
私の入る領域でないのかもしれない・・・。
ほっといてくれって言われるかもしれない・・。
だけど、拒絶されても、何を言われても、私は諦めない。





貴方が以前のように、笑ってくれるまで・・・
貴方を支えていよう。
傍にいよう・・・。






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(無関係と言われようとも、願いはただそれだけ・・・)



2006/2/15