Eden


金と銀  2





「まったくもう! イアンったらいい加減にしてほしいわ!」
「でも、悪気があって言ったわけじゃないんだし・・・お姉ちゃん。」

「・・・・あら、スピカ。貴方私が本気で怒ってると思ってるの?」
「いや、そうは思ってないよ?でもお兄ちゃん、お姉ちゃんに怒鳴られたこと
気にしてるんじゃないかなって思って。」






自室に戻ったスピカは、話でもしましょうと付いてきたミモザに振り向いて答える。


「あら、今頃そんなこと気にしてたら、イアンはとっくに胃に穴をあけて呻いているわね。」
そう言ってミモザはクスクスと笑った。

「それにね、イアンもちゃんと分かってるわ。私は意地っ張りで不器用だから・・・。」
自分の感情を誤魔化す為にあんな風に振舞ってしまうってことをね、と微笑んで続ける。
さっきもイアンの質問が恥ずかしくてあんな態度を取っただけなのだ。


でも、お姉ちゃん他の人には、そんな事ないよね?

スピカはソファに座りながらそう思い、姉を見る。
兄以外の前ではミモザはあんな風ではない。
イアンの前になると、彼女は何かとつっかかって衝突(と言ってもイアンの方は軽く受け流しているから
そうでもないのか)するのだ。


「そりゃあスピカ、お客様や他の人達の前であんな態度、取れるわけないでしょう?
家族の前だけよ? こんな我がまま通せるのは。」

スピカの表情を読み取ったのかミモザはクスクス笑って言う。


「私にも?」

「ええ。ただ、可愛い妹に怒鳴るなんて・・・・・そんなことは出来ないわ!!」
「うっ!」

後ろからいきなりミモザに抱きつかれ、スピカは思わず潰れたような声を出す。



「じゃあ、私が何かしてもお姉ちゃんは私に怒ったりしないの?」
「あら、悪いことをしたりすればもちろん怒るわよ?」
「じゃなくて、例えばさっき、お兄ちゃんが質問したことを私が質問したりとか・・・・。」
「ん〜・・・そうねぇ・・・・。」

抱きついて前後に揺れながらミモザは考える。
暫くして彼女は笑って答えた。



「怒らないわ。スピカにならちゃんと答えてあげる。」
「え、ほんと?」
「ん。ほんと。」
「・・・・じゃあお兄ちゃんが聞いたら・・・」
「その時は今度はあの顔を人前に出せないような顔にしてやるわ。」

語尾にハートマークの付いたような甘い声で彼女は囁く。



お兄ちゃん・・・・もう何も聞かない方が身のためだよ・・・・・・・



「兄妹と言ってもやっぱり、同性と異性では話づらいこともあるし。」
「・・・・そっか。」

そういうものなのか・・・。

「それに・・・・。」
「?」


「スピカには好きな人がいるし、そんな妹と恋愛の話をするのはちょっぴり楽しいし。」


!!

「もしかしてお姉ちゃん、からかってるの!?」

スピカは勢いよくミモザから離れて振り返った。

「・・・・好きな人がいるって所は否定しないのね。ま、分かってるけど。」



「じゃあ私からも質問。お姉ちゃん、好きな人いるの?」


反撃だ!とばかりにスピカは尋ねる。

「いないわ。」
「・・・・本当?」
「ええ。」



即答。

スピカはがっくりと頭を垂れた。



「・・・・・つまんない。」
「・・・悪かったわね。」

もっといい人が現れるまで待つつもりよ、とミモザは手を振って笑う。


「で?スピカさんは誰が好きなのかな?」

にやにや笑いをしながらミモザはスピカに問いかける。
知ってるくせに・・・とスピカは姉を睨んだ。


王宮での食事会やパーティに来ている人達はいつも優雅に微笑んでいる金髪の女性と
今、目の前でにやにや笑いをしながら妹の想い人と問いただしている女性が同一人物
だなんて知りもしないだろう。
しかも知ってて聞いているのだからたちが悪い。


「・・・・ア。」
「何?聞こえなかったな〜?」

わざとらしくミモザは耳を傾ける。
その動作にスピカはカチンときて思わず声を大きくした。

もう!知ってるくせに!!


「リア! リア・セイクレイド!!」


「・・・・まぁ、知ってたけどね。」

ミモザはふふっと笑ってソファに腰掛けた。
その動作はとても優雅で洗練されていて、思わず見惚れる。
スピカは、知ってるんだから聞かないでよ・・・と小声で言って彼女の横に腰掛けた。


スピカがリアに対して好意を持っていることは知っている。
それがいつからかは知らないが、ずいぶんと前からだろうと思う。
彼らはスバルを含めて3人、いつも一緒だった。
リアを見て笑う妹、スピカはいつもの表情より何倍も幸せそうで
その時の笑顔は自分が見ているものよりももっと、素敵なものだった。



「ねぇ・・・お姉ちゃん。」
「何?」
突然肩に寄りかかってきた妹に、内心驚きながらも優しく声を掛けたのは
彼女の声が、どこか弱々しかったから。


「リアが・・・変なの。」
「変?」
「ううん、変っていうのは何か違うかも・・・。」
「ん?」

ぽつり、ぽつりと話し出す。

「リアね・・・ずっと苦しそう。」
そう、それはいつも見ていて思うこと。

いつから彼がそんな表情をしていたのか・・・・
それは残念ながら思い出せない。
なぜなら、私の記憶の中で、本当に笑っていたリアは・・・私達が幼い時だったから。


「いつからか分からないけど、苦しそうな表情をしてるの・・・。」
なのに、私やスバルや、皆の前では何て事のない表情をしている。
いつも穏やかに笑って・・。

「苦しくて・・、今にも泣きだしそうな顔してるの。」
ねぇ、いつから?いつからそんな顔をしてた?

私と昔みたいに話してくれなくなったのと関係があるの?
敬語を話して、距離をとろうとする事と関係あるの?


私に何か・・・出来る事はない?


どうしたら貴方にあんな顔させないですむのかな。





私には何が出来るのかな。
ずっと考えてた。どうすれば、あの頃のようにまた、笑ってくれるのか・・・。



貴方の笑顔が好きです。
私は、もう一度貴方に笑ってほしい。



その為なら、どんなことでも。








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2006/1/19