Eden
木漏れ日 3
本日の天気 晴天。
心地よい風が吹いて、少年と少女の髪を優しく揺らす。
絶好の散歩日和とは、まさにこの事。
「リアと2人だけで散歩なんて、久しぶり。最後に散歩したのはいつだったかしら。」
「半年ぶり・・・じゃなかったでしょうか? かなり前だったと思いますよ。」
城の庭を歩きながら会話は続く。
色とりどりの花は隅々まで手入れが行き届いていて、美しく咲き乱れていた。
スピカはリアが散歩に誘ってくれたことが嬉しくて、足元がふわふわした、そんな気持ちだった。
嬉しそうなスピカを見て、リアも思わず口元が緩む。
「楽しそうですね?」
「ええ、とっても楽しいわ。」
リアを見てふふっと笑うとリアは少し怪訝そうな顔をした。
しかし、スピカがその後何も言わずに笑っているので視線を前に戻した。
花の手入れをしていた庭師の老人は2人の姿を見ると嬉しそうに目を細める。
「姫様、リア副隊長、お散歩ですかな?」
肯定の代わりにリアは微笑み、スピカは嬉しそうに笑う。
それを見ると老人はまた目を細めた。
この2人が一緒に散歩する所を久しぶりに見る。
小さい頃は毎日のように見ていたが、いつからだったか滅多に見なくなった。
今でもスバル隊長を含めた、3人で散歩をするのはよく目にするが、2人での散歩を見るのは
久しぶりだ。
「いい天気ー! あ、ねぇ、リアこっちこっち。」
何かを見つけると、スピカは駆け出す。
一瞬反応が遅れて、リアは彼女に視線を移す。
小さい頃からいつもそう・・・
何かを見つけてはその方向に走っていく。
手招きするスピカを見てクスッと笑うと小走りで駆けていった。
「何ですか?」
「ここ、見て。」
リアが近づくと、しゃがみこんでいたスピカは嬉しそうに振り返る。
目の前には少し古いベンチがある。
木で出来たベンチで、背もたれの所には細かな彫刻が彫り込まれている。
「・・・どこですか?」
「ここ!」
しゃがみこんで探すリアに顔を近づけて、スピカはベンチの座る所の一部を指差した。
突然、少女の顔が真横に来て、思わずリアは顔を赤くする。
指差された所を見ると、そこに小さく、自分とスピカの名前が彫りこまれているのが分かった。
「ああ・・これ・・・。」
思わず、笑みがこぼれる。
これは、以前、自分と彼女が付けたものだ。
4年前・・・位だろうか、お菓子を持って来てここで3人で食べようと誘ったら、スバルは「パス。」と言って断った。
2人でこのベンチで食べながら話していたら、スピカが言ったのだ。
あの時の記憶が蘇る・・・。
「スバルったら、後でここに来ても座らせてあげないんだから。」
スピカが小さく頬を膨らませる。
「剣術の稽古が入ったんだって。仕方ないよ。」
「でも先生は後でいいから遊んで来いって言ったわ。」
「スバルは、剣術の稽古が好きだから・・・。」
リアがそう言うと、ふいにクスクス笑いが聞こえる。
「・・・・リア、私、怒ってないわ。」
「え!ご、ごめん!!」
リアは慌てて手を振る。
「スバルが剣術の稽古が好きなのは、もちろん知ってるもの。ね?」
そう言ってスピカは笑う。
しかし、笑い終わった後、何かを考える仕草を見せた。
「?」
怪訝そうに見ると彼女の口元がにぃっと上がる。
彼女は何かしら企んだ様子でベンチから降りると、小さなナイフで何やら彫り始めた。
「・・・・スピカ?」
「出来たっ!」
「・・・・・・。」
そこには小さく彼女の名前が彫ってあった。
「何よ・・・その顔・・・。」
「いや・・別に・・・。」
「笑わないで。ほら、リアも。」
「ぼ、僕も!?」
「2人彫らないと意味がないわ。ね?」
「?・・・わかったよ。」
そう言うとリアも自分の名前を小さく彫った。
スピカの名前の隣に。
その2つの名前はとても小さく彫ってあって、注意して見ないと分からないような大きさ。
リアは自分の名前の横にスピカの名前があって、何だかとても気恥ずかしくなった。
「これには・・・どういう意味があるの?」
「今日から、このベンチは私とリアの専用ですよって印。」
「え?」
・・・・スバルは?
「スバルは・・・そうね、これに気づいて、俺の名前を加えろ!って言ったら加えましょう?」
「何でこんなこと?」
「だって、今日のお菓子を外で食べる計画、以前スバルが外で食べたい!って言ったから計画したのよ?
それなのにスバルはいないし・・・・なんだか癪だわ。」
そう言って彼女は軽く膨れた。
「怒っていないんじゃなかったのかい?」
「怒ってはいないわ?ただ、なんとなく意地悪。」
そう言って、お互い笑った。
でもスバルはこれに気がつかなくて、だから僕も何も言わなくて、月日は流れて、いつの間にか
忘れてしまったんだ・・・・。
「昨日ね、ふと思い出したの。これに、名前彫ったこと。」
彫られた2つの名前を撫でながらスピカは笑う。
「あの時、姫はスバルが来なかったのを怒ってましたからね。」
「だから、怒ってないってば。」
からかうように言うと、スピカは苦笑いで言った。
「私、リアはすぐにスバルにこの事教えるんだと思ってたけど・・。」
ベンチに座るとスピカは言った。
「初めは教えようと思ったんですが・・・途中で止めたんです。」
「そうなの?どうして?」
答えようとして、一瞬口が止まる。
言葉に出そうとした言葉を飲み込んでリアはにっこり笑った。
「秘密です。」
本日の天気、晴天。
絶好の散歩日和。
BUCK/TOP/NEXT
------------------------------------------------------
2006/1/11